≪最終章―役立たず、決戦―≫(前編)
「ごめんなさい。言いつけ破って前出てきちゃいました。で、悪いんですけど二人とも後は他の小さい魔物の相手をしつつケガ人を安全な場所に転移させてやってください。こいつは俺が倒します」
「な、スバルなぜ!?と言うか『倒します』なんてお主簡単に言うが勝算は!?」
「ありません!でも大丈夫です!多分何とかなります!」
確証なんてまるでない。
でも自信と
あの笑顔を守る為なら、多少の無茶くらい通して見せるのが男だろ。
「多分って君あれが何か分かっているのかい!?それを一人でだなんて!ソフィアの前だからカッコつけたいのはわかるけど……」
「アハハハハ……。それまだ引っ張ってたんですね。あぁもうじゃあそう言うことでいいです。とにかく今はあいつから皆を守るのが先です」
「そりゃそうだけど君……」
「よい、エルダ。少なくともワシらが戦うよりかは幾らか建設的じゃし勝算も高い。悪いの、スバル。損な役回りさせてしまって」
「良いんですよ。それに不釣り合いな力を持ったなら、持ったなりにできることをやりたいだけです。もちろん怖いですけどね」
自分でも信じられないくらい自然に笑えた。
普通こういう時は無理に笑顔を作るもんかと思っていたのに。
でも見たいんだよな、あいつが笑ってるところ。
「スバル・スコットランドダナ」
「あぁ、そうだよアダム。会うのは二回目なのにもう名前を憶えてくれえたのか?人気者は困るね。今日なんて王宮中のやつから呼ばれたよ」
まぁ本名だったかどうかは知らないけど。
「オマエニヨウハナイ。ヤツカラモオマエハコロスナトイワレテイル」
「奴ってのはレヴィのことか?」
「アァ。アッタノカ?」
「さっき丁度そこでばったりとな。色々話せて楽しかったよ」
実際レヴィと話すことができてよかったと思っている。
アリサにあんなことをしたこと、もちろん許せるはずがない。でもいまこうして俺がここにこんな気持ちでいられるのはあいつのおかげだ。
「ソコヲドケ、オマエトタタカウリユウガナイ。オレノモクテキハソフィアダケダ」
「そう言うなよ。大体それされると困るんだよね。俺はそのソフィアさんを守るためにここに来たわけだしさ」
「スバル。イゼンノコトヲ、モシオレガニゲタトオモッテイルナラソレハマチガイダ。アノトキコロソウトオモエバコロセテイタ。ソレヲシナカッタノハタダノキマグレ。モシソレヲカンチガイシテイルナラ――」
「してねーよ。んなことはとっくに気づいてるっての。そもそも最後の
とにかく、先代魔王とやらがあいつに与えたらしいあのイヴとか言う剣が厄介だ。
あれがある限り魔法を使っての戦闘はまず無理。
「……イイダロウコロサナケレバ、ヤツトノヤクソクヲヤブッタコトニハナルマイ」
「ハッ、言ってくれるじゃねーか。ちょっと知能持っただけの
『オークのくせに』。よく言ったものである。そのオークに勝てなくて俺は『役立たず』と言われる様になったのに。
全身に魔力を巡らせる。
魔法での肉体強化じゃアダムがイヴを持っている限り気休めにしかならないのは分かっている。でもやるしかない。
イブに当たればアウト、なら必要なのは速さとその加速に耐えられるだけの強靭な体と奴を見切れるだけの目。何でもなんて見える必要はない、今俺が見えなきゃならないのはあいつの動きだけ。
アダムの体に力が入った。来る。
「ラアァァァッ!」
「っぶねぇ!殺さないって何だよ!いきなり首狙いやがって!」
見える。見えるけどこっわ!剣を振りぬいた風圧で大地がえぐれた。
「ソフィアさん!エルダさん!今のうちに!」
「あ、あぁ!」
「任せたぞ!スバルよ!」
そう言って二人が転移魔法の光に包まれていく
「ニガスカァ!」
「させねぇって言ってんだろ!」
二人に向かって斬りかかろうとするアダムの横顔を思いっきりぶん殴った。
とんでもない衝撃に、踏み込んだ足元が大きくひび割れる。
「てめぇの相手は俺だ!アダム!」
「ワラワセルナッ!」
マズい。アダムの魔力が一気に膨れ上がった。
イヴの切っ先にその魔力が凝縮されている。
撃たれなくても容易に想像がつく。あんな魔法をこんなところで撃たれたらそれこそ一巻の終わりだ。
「クソッ!そんなのありかよ!」
どうする、同じ威力の魔法を……ってそんなのできるかすらわからないしそもそも被害が大きくなるだけ。いやでもさっきみたいに――!
「ラァァァッ!」
「どうにでもなれ、ミニ
さっきは体がとっさに動いた。
あれがぶつかっていれば多分二人はもちろん、他の兵士達にも大きな被害が出ていた。それをさせないためには爆発を広げなければいい、そう思った。
だからイメージしたのは全てを焼き尽くす圧倒的な火。どんな大きな力も燃え尽きればそれまでだ。
イヴの切っ先から三日月型の魔法が放たれる。当たれば必死。
でも当たる前に焼き切る。あの日の粒より更に小さな光の粒が激しく発光した。
途端爆発。後には文字通り塵一つ残っていない。
「危ねぇだろ!ちょっとは加減しやがれ!」
これで怯んでくれればと思ったがそうはならなかった。
アダムの雰囲気が変わった。
「フッ、ナルホド。タショウコロスツモリデモヨサソウダナ」
下手に奴のプライドを刺激してしまったらしい。
『強い固体になればなるだけプライドが高い』。なるほど、それはオークにも当てはまるのだそうだ。
「悪いけど、殺されてやるつもりはないからな!
読んで名の通り、小さな
どうせイヴで切り払われればその場で魔法としての効力を失う。近づかれる前にまず一度構えたイヴを振らせる。
「ムダダァッ!」
「無駄?狙い通りだよ!」
狙いたがわずアダムに迫った六つの光はイヴによって断ち切られた。
だがそれでいい。斬られた光の欠片が後ろに流れていく。
イヴを最速で振り切れる状態のあいつには正直どうあっても勝てやしない。当たれば即死の剣を持って、とんでもない速度で突っ込んでくるのだ、どうしようもない。
「イヴがあるせいでまともに戦えないんだ、これくらい許せよ!」
「キサマアァッ――!」
ド近距離で
あの時とは違い、激しい爆発が起こった。
「……ッッッ!」
とんでもない痛み。腕が残っているのかどうかすら怪しい。
でも、やれる、止めるな、流れを。思い出せ、元の形を。繋げるだけでなく、正しい流れに引き戻す。随分と練習したんだ。水魔法は特に。
「アアァァァァッ……!ウグゥアァァッ!」
「ち、ちったぁ堪えたみたいだな、アダム!」
俺の方がどう見ても被害は大きいが、初めてアダムにまともなダメージが入った。脇腹が跡形もなく消し飛んでいる。代わりに俺は一番近くにあった右腕が炭みたいになった。痛いとか痛くないとかそう言うレベルではない。
水魔法で治癒しながら体の感覚自体を誤魔化し続けてやっとこさ立っていられる状態。てかここまでやって治るのかな。まぁいいや。
「人間舐めんな!」
「ガッ、アァァッ!」
苦悶の表情を浮かべていたが、その傷が少しずつ塞がっていく。
「あぁ、そう言うこともできんのね。便利なもんだな、魔法ってのは」
一体どの系統を使えばあぁなるのだろうか。やっぱり水?いやそれとも例の光か闇あたりだろうか。
「コレモセンダイマオウヨリタマワリシチシキユエノモノ。ユエニオレハダレニモマケハシナイ」
「あっそ。ご報告どうも」
完全に裏目に出てしまった。あんなことができるなら捨て身の一撃なんてのは何の意味も持たない。
片腕であれとやるのか、困ったな。
「どうした、来ないのか?」
あいつにも漢の部分があったのだろうか。さっきまでのように向かってこない。片腕が使えない奴をいたぶる趣味はない、みたいな。だったら嬉しいんだけど。
「オレニココマデキズヲツケタノハユウシャイライダ。ホメテヤロウ」
「褒めなくても良いからできれば帰ってくれないか?見た通りもう戦えないんだけど」
俺が戦えないとなれば、こいつはすぐにでもソフィアさん達を殺しに行くだろう。それだけは困る。
二人ともやはり素晴らしい魔法使いだ。近くでこんなドンパチやってるって言うのに適格かつ迅速に負傷者たちを助けてくれている。これほど頼もしいことは無い。
「ダガスバル、イマノオマエハモウタタカエナイ。ソウナッテシマッテハショウブハオアズケダ」
「なんだ?帰ってくれるのか?」
「アァ。ソレモカンガエタガイマハ――」
アダムがそう言い切るより先に、この戦いにはあまりにも非力としか言いようのない魔法がアダムを襲った。
「だっ、誰だよ今のは!もう少しで――!」
「や、やったわ!やってやったわ!ハハハハハッ!そうよ、あんな役立たずにもできるんだしできて当然よ!アハハハハッ!」
そこにいたのはアルテマ・ミズーリだった。
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