第23話 同盟②


「じゃ、また後でね」


瞬間移動能力の女の子は、そう言って姿を消した。

文字通り瞬間的に消えた。


まだ心臓は高鳴っている。

今あの子は、私を殺ろうと思えば殺れた。

でも殺らなかった。


ひとまず、敵意がないというのは本当だと思っていいかもしれない。少なくとも、こちらの情報を提供するまでは。その後どうなるかは分からないけど。


しばらくすると、携帯電話からボソッと何か聞こえてきた。


『……ウス、……よろッス』


「え?」


男性の声っぽかったけど、上手く聞き取れなかった。


またしばらくして、今度は世界探偵の声。


『失礼しました。今のは超長距離射撃の能力を持つ男性です。彼は大変無口な方でしてね。悪く思わないでください』


今のが挨拶だったのか。

確かに、ステータス表示を見た感じ暗そうな印象だったけど、まともに挨拶もできないレベルとは。


「まあ、いいけど」


『では紹介が済んだので、そろそろ本題に入りましょう。先ほど申し上げた通り、我々3人は同盟を結び情報共有をしましたが、この不思議な能力についての情報は極めて限定されています。なんでも、神を名乗る存在に能力を授けられ、能力者同士の戦いに勝った者は神になれると約束されたそうですが、あなたも同じですか?』


「ええ、あの胡散臭い主催者のことね」


『それともう一つ。能力者は少なくとも6人いて、能力者を殺せばその能力を手に入れることができる、という情報を得ています。これも同じですか?』


「ええ、同じ」


『ここで問題なのは、能力者が得た情報量に差があったことです。瞬間移動能力には前者一つしか情報が与えられなかったのに対し、超長距離射撃には前者と後者二つの情報が与えられていました』


超長距離射撃より瞬間移動の方が上位だったってわけね。実際、瞬間移動の方が使い勝手がいい。


『そして私の見立てでは、初代リッパーは何も知らなかった。だからあなたは情報量の差を駆使してリッパーを討ち取ることができた。違いますか?』


こいつ、能力も持たない一般人のくせにそんなことまで……。


どうする?

あまり素直に答えては、こちらが不利になる。

とはいえ、もうほとんどバレてるなら、下手に隠すより向こうがどこまで分かっているか探った方がいいのか。


『ゆっくり考えてくださって構いませんよ。通話料はかかりませんので』


「いえ、あなたの言う通り、私には6人の能力者の顔と名前が分かってる。だから、そっちの二人もデータの上では知ってた」


『ほう、つまり我々が知らない残りの二人も、あなたは知っているということですね』


「ええ。ただし、二人のうち一人はもう死んでるけどね」


『あなたが殺ったのですか?』


「いいえ、もう一人の男に殺られた」


『するとその男は、少なくとも二つの能力を持っていることになりますね』


「そうね」


このあたりまでなら話しても問題ないだろう。でも、これ以上は……。


『では…』


「待って」


世界探偵の言葉を遮り、私は主張する。


「少し休ませて。汗拭きたいし、喉も乾いてるから。あとお手洗いも行きたい」


少しの間を置いて、事務的な声が返ってくる。


『分かりました。では15分後、今度は私の携帯電話からかけ直しますので、知らない番号でも出てください』


「分かった」


『それから、くれぐれもホテルの外には出ないようお願いします』


「それも分かってる。逃げようとしたら撃つんでしょ?」


『理解が早くて助かります』


世界探偵は「撃つ」という言葉を否定しなかった。


超長距離射撃の能力は射程が38万km以上もあるってこと?

じゃあ、その能力を私が増幅したらどうなるんだろう?

太陽系の外まで届く?

そんな能力必要なの?


戦いは既に地球規模を超えている。

私が持つもう一つの能力『宇宙空間適応能力』が切り札になる時が来るかもしれない。


そんなことを考えながら、私はベッドから立ち上がった。


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