第21話 レベルマックス


さあ、始めましょう。

このただれた人間社会の浄化を。


私はベッドの上で正座し、祈りを捧げるように手を組む。


そして、能力を発動しようとしたその時、


♪♪♪♪♪♪♪♪♪


携帯電話が鳴った。


誰? このタイミングで間の悪い。


確認してみると、父親からだった。

私は通話ボタンを押して電話に出る。


「どうしたの?」


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・


尋ねるが、返事がない。


「お父さん?」


『すみません、お父さんじゃありません』


「は?」


聞き覚えのない若い男の声。


『はじめまして、二代目リッパー。私は世界探偵ングと申します』


あまりのことに、私は言葉を失う。


え、何なのこいつ?


世界探偵? 二代目?


なんで私のこと知って……?


『まず先に伝えておきます。あなたのお父さんは無事です。少し携帯電話をお借りしているだけで、傷付けるようなことは一切していません』


いや、問題はそこじゃない。

電話がかかってきたということは、私の素性も居場所も知られている。


私は窓からの狙撃を警戒し、すぐさまベッドの横にしゃがんで身を隠した。


『私のことはご存知でしょうか? 三ヶ月ほど前に、初代リッパーに対してライブ放送をおこなったのですが、見ていただけましたか?』


もちろん見た。

こいつが余計な情報を与えたおかげでリッパーの警戒心が増して、探すのに時間がかかってしまったのだ。


私は尋ねる。

「あんたも能力者なの?」


『さてどうでしょうね? しかし、その質問からすると、あなたは能力者とやらで間違いなさそうですね』


しまった、つい余計な情報を与えてしまった。

今すぐ通話を切るべきか?


『あ、通話は切らない方がいいですよ』


まるでこちらの心境を見透かしたように切り込んでくる。


「まさか、お父さんを人質にするつもり?」


『いいえ。私は犯罪者ではありませんから、そんな卑劣なことはしません。むしろ、人質はあなた自身です』


「どういうこと?」


『あなたは、すでに私の射程内に入っているということです』


射程内……まさか……!

リストに載っている『超長距離射撃』の能力者も若い男だった。


が、さすがに声だけでは分からない。

ハッタリの可能性もある。


「だったら、早く殺せばいいじゃない」


『その前に情報がほしいんですよ。なにせ、私はこの世界の裏で何が起こっているのか、ほとんど把握していませんから』


超長距離射撃もまた上位能力だ。

情報が限定されているという話は筋が通っている。


「簡単に話すと思う?」


『まあ難しいでしょうね』


話しているうちに少し冷静さが戻ってきた。

ハッタリがどうか確かめるために、今度はこちらから挑発してみる。


「だったら、殺さなくとも腕か足でも撃ってみればいいじゃない?」


『残念ながら、そういう器用なことはできないんですよ。私の能力は必殺必中ですので』


こいつ、自分から情報を……。

ますますもって怪しい。


「どうして、私がリッパーだって思うの?」


『正確には二代目リッパーですがね。前のリッパーとあなたは別人です』


「だから、どうしてそう思うの?」


『あなたは痕跡を残し過ぎです。レンタカーの貸出記録、新幹線の予約チケット、ホテルの宿泊者名簿、なにより防犯カメラ。せめて変装くらいはするべきでしたね』


もういい。

これ以上こいつの話に付き合ってはダメだ。


父の携帯電話を使っているということは、こいつは国内にいるはず。通話しながらでも射程を伸ばし、殺られる前に殺る。


「だからといって、私がやったっていう証拠はないでしょう?」


言いながら、能力を発動。


『確かに証拠はありません。でも、もうそんなものは必要ないんですよ』


さすが首都圏。たった一回の発動で射程が1000kmを超えた。

たった今、100万人近い要介護者が逝ったのだ。


「どうして?」


『あなたの能力は強大過ぎます。通常の逮捕など到底できません』


二回目の発動。

標的は要介護者及び世界探偵ング。

本州の大半を飲み込む長大な射程での範囲攻撃。

結果、一瞬にして射程が5000kmを超えた。つまり、400万人が逝った。


『ですから、あなた処遇については特別な指示を受けています』


まだ死なない!?

父の携帯電話を持って日本から出たってこと?


『どうしました? さっきから心ここにあらずといった感じですが』


「あんた、今どこにいるの?」


『あなたの能力の射程内にはいないつもりですよ』


いい気にならないことね。

射程はまだ伸びるんだから。


半径5000kmにも及ぶ超範囲攻撃を発動。標的は要介護者、犯罪者、ヤクザ、マフィア、自殺志願者、そして世界探偵ング。


『もしかして今、私のことを殺そうとしてますか?』


これでも死なない!?

地球の裏側にでもいるっていうの?


しかし、ついに射程が地球の直径を超える13000kmになった。

ステータスには『レベルマックス』と表示されている。どうやら、これ以上は何人殺っても射程は伸びないようだ。


構わない。

次は確実に殺れるのだから。


「ねえ、いいこと教えてあげようか?」


私は機先を制するため、相手が食いつきそうな言葉を発する。


『ほう、なんでしょう?』


今度こそ終わり。

標的は一人、世界探偵ング。


「じゃあね」


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