第13話 能力を増幅する能力


気持ち悪い…。


まずはこの男の死体を処理しておこう。

方法は簡単だ。見えなくなるまで小さく切り刻めばいい。


リッパーの能力は『物体であれば何でも切れる能力』だ。

その気になれば原子でも電子でも素粒子でも切れる。


飛び散った血液も含め、男の痕跡を完全に消すと、少しだけ心がスッキリした。


でも、たった一人消したくらいじゃ世界は何も変わらない。

うじゃうじゃとうっとうしい人間どもをもっともっと消して、世界をスッキリさせないとね。


私は男のアパートから出て、歩きながら考える。


まずやっておくべきことは、リッパーの能力と私の能力の検証だ。


リッパーの能力については、自称神様とかいう胡散臭い主催者から情報をもらったからだいたい分かってるけど、実際に使ってみないことには分からないこともあるでしょう。


そして私の能力、『能力を増幅させる能力』についてはこれからだ。


この増幅能力は、誰か一人殺してその能力を奪わない限り全く役に立たない。まさに最弱。


しかし、それでは勝負にならないため、あの胡散臭い主催者は開始時点での情報量に差をつけた。


最強の能力をもらったリッパーは、自分に能力が宿ったこと以外何も分からない状態でスタート。


それに対し最弱だった私は、能力者全員の顔と名前、そしてどんな能力を持っているのかも分かっている。


リッパーの能力を得た今、私が圧倒的に有利になった。…と思いたいところだけど油断はできない。


私みたいに複数の能力を持ってる奴がいるかもしれないし、単体でも使い方によっては出し抜かれる可能性はある。


一刻も早く能力の検証をしたい。

だからといって、あまり派手に動くわけにはいかない。


なにせ私の『能力を増幅する能力』は、人を殺すことが発動条件だから。


つまり、殺せば殺すほど『何でも切れる能力』が強くなっていく。


『何でも切れる能力』の何が強化されるのかはまだ分からない。殺傷能力をこれ以上強くしても意味ないから、たぶん射程が伸びると思うけど…。


なんにしても、いきなり大量虐殺を始めるのはまずい。みすみす敵に情報を与えるようなものだ。

リッパーが死んだのを知っているのは私だけなのだ。当分はリッパーの死を隠しておいた方がいい。


となると、リッパーのフリをしながら能力を高めていくのが最善策か。

でも、あいつ、あんまり人殺しはしなかったからな。

まどろっこしいなぁ…。


とりあえず増幅効果の検証だけ済ませとこうかな。

ちょうどいいところに老いたホームレスがいるし。あれなら突然いなくなっても大した騒ぎにはならないでしょう。


それにしてもホームレスってある意味すごいよね。

あんなに不潔にしてて病気にならないのかな? 冬はどうしてるんだろう? 夏だって相当キツイよね。


なんでまだ生きてるんだろう?

生命力ヤバくない?


でも、もういいんだよ。

あなたはよくがんばった。

そんなになるまでよくがんばった。


だからね。

もうおやすみなさい。


私は周囲に人がいないことを確認した後、老いたホームレスを消した。


正確には、リッパーと同じように見えなくなるまで切り刻んだ。


一瞬のことだ。

苦痛も恐怖もない。


死体処理の必要もない。


私って慈悲深くない?

死ぬのって、けっこう手間だからね。


こんな幸運めったにないでしょう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る