第7話 挑戦状②


午後8時。

パソコン画面に黒い猫の着ぐるみが映った。

背景は窓一つない殺風景な部屋だ。


着ぐるみは立ったまま、こちらを見据えている。


こいつが世界探偵?

ふざけてんのか?


【私は世界的難事件を解決するために活動する、世界探偵ングです】


明らかにボイスチェンジャーか何かでいじった甲高い声。性別も分からない。

が、日本語は流暢だ。日本人なのか?


【数週間前から始まった謎の殺傷事件。これは断じて神の裁きなどではなく、人為的なものであると私は確信しています】


自信ありげな口調だ。


【犯人は間違いなく人間です。私はこの事件の首謀者、通称リッパーの正体を暴き、必ず法の裁きを受けさせます】


バカか、こいつ。

証拠がないのにどうやって捕まえるつもりだ?


【リッパー、お前が何のためにこんなことをしているのかは大方予想がつく。だが、お前のしていることは犯罪だ】


そんなことは承知の上だ。


【それでも、誰かがやらなければ世の中を変えることができない。そういうつもりでやっていることも予想はつく。お前がただの快楽殺人者であれば、被害はこの程度では済まないのだろう】


そりゃそうだ。

俺がその気になれば、数十万人でも数百万人でも殺すことができる。だが、そんなことをしても意味がない。


【世の中にはお前を神のように崇める者もいる。その者たちからすれば、お前を捕まえようとする私の方が悪なのかもしれない】


そこは分かってんのか。

独りよがりな正義ほど危険なものはないからな。


【だが、私は信念を曲げるつもりはない。政府も警察も、私を全面的に支援することを表明してくれた。少なくとも、この国の法においてお前は悪だ】


そりゃ権力の側にいる人間にとっては、リッパーの存在は脅威でしかないだろう。


【もしお前に罪の意識があるのなら、ただちに出頭してもらいたい。世界探偵の名にかけて人権は保障する】


信用できるか!

こんな危ない能力の持ち主を野放しにするはずがない。


【だがお前が出頭に応じないのであれば、私はどんな手段を使ってでもお前を探し出し、死刑台に送る】


死ぬのはお前だよ。

仮に俺を見つけたとして、どうやって自分の身を守るつもりだ? 俺の能力については何も分かってないんだろ?


【法で裁けない悪を裁いているつもりのお前にとって、私は許し難い存在だろう? ならば私を殺せ。今ここで私を殺してみせろ】


なんだ、こいつ…!?


【お前は指一本触れることなく人を殺せるのだろう? ならば私を殺すことも容易いはずだ】


正気か?

生放送で公開殺人しろってのかよ。


【どうした? 早くやってみろ!】


できるはずがない。


【どうした? できないのか?】


こいつがどこから放送しているかは分からないが、少なくとも半径300メートル以内にはいない。


【やはりそうか。お前の能力は万能ではない。誰でも好きなように殺せるわけではない】


いや、単に殺す気がないだけかもしれないだろうが。あるいは放送を見てないだけかもしれないだろ。


【お前の能力には制限がある。よって、お前は神ではない。人間だ。人間ならば必ず捕まえる方法はある】


命懸けの挑発で分かったのはそれだけかよ。世界探偵ってのも大したことないな。


【最後に、これだけは言っておこう。リッパーよ、その能力が自分だけのものと思うな】


なに…?


【世界は広い。お前と同じことができる人間が、他にもいるかもしれないな】


う…。

確かに、その可能性はある。

なぜ今まで考えなかった?


【お前は派手に動き過ぎた。一般人が相手ならともかく、能力者同士の戦いでは不利な状況かもしれないな】


まさか、こいつも能力を…?

だとしても俺とは違う能力のはず。

同じならあんな挑発はしない。


【では、今日の配信はここまでにするとしよう。近いうちに出会えることを願っているよ。その時は、どちらかが死ぬ時かもしれないがな】

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