第367話 般若の形相

クレハの反論にホルイン伯爵は何も言い返せないでいると、ようやく自分の失態を認めたのかとクレハは呆れていた。


「まったく、他人に売り渡す商品なんですから、それくらいの責任をもって取り組んでくださいよ。」


「う、うるさい、今回は運が悪かっただけだ!そんなことを知っていれば私だって対策くらいしたさ!」


クレハの呆れ顔にホルイン伯爵は運が悪かっただけと自分の責任を認めないでいると部屋にクレハですら感じたことがない冷たい声が響き渡る。


「運が、悪かったですって・・・。」


「「えっ?」」


そんな冷たい声にホルイン伯爵とクレハが同時に声がしたほうを向くと、そこには般若の形相で怪しく目を輝かせ、ホルイン伯爵を睨みつけている王妃の姿があった。


「ホルイン伯爵、私はあなたの言う、運が悪かったせいでここまで辱めを受けたのかしら?クレハの話では、私はたいそう滑稽に悪臭を振りまく人間だと思われていたということよね。それが、運が悪かったの一言で済まされるのかしら?」


「ひぃっ、も、も、申し訳ございません。私どもも、そのような事実は知りませんでしたので。


そもそも、その事実を知っているのであれば、その男爵がもっと早くに忠告するべきだったのです。そうです、悪いのは、この事実を知りながら今まで隠していた、その男爵です!


私だって、開発の段階でそのことを知らされていれば、こんなことにはなりませんでした。」


何とホルイン伯爵はこの期に及んでクレハに責任転嫁を始めたのだ。これには、さすがのクレハもキョトンとしてしまう。


「はい?なぜ、あなたの商会とは全く関係がない私が開発の段階でアドバイスをする必要があるんですか?というか、出来るわけがないですよ。言い訳をするのであれば、せめて、筋の通った言い訳をしてくださいよ。追い詰められて自分でも何を言っているのか分かっていないんじゃないですか?」


もちろん、この言い訳は王妃の怒りをさらに買うものとなるわけで・・・。


「ホルイン伯爵、言い残す言葉はそれが最後でいいですか?お前には私が受けた屈辱を何百倍にして返してもらいますから・・・。覚悟してください、私の持ちうる全ての知識を動員してあなたに苦しみを味合わせてあげます。


そうですね、手始めに慰謝料をもらいましょうか。国の王妃に恥をかかせたのですから、賠償の額も桁が違いますよ・・・。あぁ、そう言えば、最近は誰からも香水を買ってもらえずに、財政が危ないらしいですね。


良い機会です、屋敷ごと調度品など、何もかも売って賠償にあててもらいましょうか。だって、今の財政ではお金は用意できないでしょう?それで構いませんよね、・・・伯爵。」


王妃の圧力にホルイン伯爵は青い顔をしてガクガクと震えることしかできないのであった。

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