第362話 顔をしかめる貴族達
本日は数カ月に一度、王城で晩餐会が開催される日だ。この晩餐会には名だたる貴族たちが一堂に集まり、親交を深める。
もちろん、クレハもこの晩餐会には参加していた。本来であれば男爵という身分でこの晩餐会に参加することは珍しいが、彼女はクレハ商会の商会長というステータスも有しているため、この場にいてもおかしくない存在だ。
「よう、ビオミカ男爵!」
「これは、ポティリ男爵、お久しぶりです。香水の件ではお世話になりました。」
クレハに突然声を掛けてきたのはポティリ男爵であった。彼女は本来であればこのような場に参加することは珍しいのだが、香水の件で自身のガラス細工を注文してくれたことにお礼を言いたいと考え、王都までやって来たのだ。
「何言っているのさ、世話になったのはこっちの方だよ。おかげで助かっているよ、こういう依頼は大歓迎さ。」
「ありがとうございます、ポティリ男爵の容器が良かったので売れ行きは順調ですよ。」
「中身が良いんだよ、あたしたちのは、あくまで、中身を彩るだけの飾りなんだから。」
こんな風にクレハとポティリ男爵が会話に花を咲かせていると国王と王妃が会場に入場する。そこから、参加者たちのあいさつが始まるのだった。
この挨拶とは、晩餐会を訪れた貴族たちが国王と王妃に必ず行うものであり、彼らは次々とその儀式を進めていく。しかしながら、彼らは決まって王妃とのあいさつが終わると顔をしかめながら立ち去るのであった。
「なぁ、ビオミカ男爵、なんか、王妃様に挨拶した貴族たちの様子がおかしくないか?」
「えぇ、そうですね。何だか、我慢しているように見えますが・・・。」
そんな貴族たちの様子に怪訝な表情を浮かべるクレハ達であったが、すぐに自分たちの番になる。そして、クレハの番が来た時だ。王妃の近くによると濃厚で強烈なにおいが彼女から発せられているせいで思わず顔をしかめてしまいそうになる。
しかしながら、この場でそのような事が許される筈もなく、彼女は顔の表情を殺し、無難なあいさつを終えるのであった。当然、クレハの後にポティリ男爵があいさつを終えるとその話題になる。
「ビオミカ男爵、あの匂いは一体?」
「さぁ、なんなんでしょうか?あまりにもきつい匂いでしたが・・・。王妃様は自分の状態に気が付いていないのでしょうか?陛下だってあそこまで近ければ気が付いているはずなんですが・・・。」
クレハが王妃からから発せられた匂いの正体を考えていると、彼女にとっては迷惑な人間が声を掛けてくるのであった。
「おぉ、こんなところにおったか、ビオミカ男爵。くっ、くっ、くっ、あの時、勝ったと思っていただろうが負けたのは貴様だ!ざまぁみろ!」
そう、彼女たちに近づいてきたのはニヤニヤと笑みを浮かべたホルイン伯爵であった。
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