第361話 慣れ
ホルイン伯爵は自身の香水を再び人気商品とするため、王妃と面会を行っていた。
「王妃様、本日は面会をお受け頂きまして誠にありがとうございます。」
「気にしないで頂戴。なんでも、新商品を試してほしいって話よね?」
「はい、そうでございます。我がホルイン家が長年、研究に研究を重ね開発に成功した香水となります。まずはこちらを・・・。」
伯爵がそう言うと、液体が入った芸術品ともいえるような小さな瓶を王妃に差し出すのであった。
「これが、新しい香水?瓶は確かに変わっているようだけど、従来品と何が違うの?」
王妃は以前にもホルイン家の香水を使用していた経験があったため、匂いを嗅いでも同じバラの香りで全く違いが分からなかったのだ。そんな王妃に、ホルイン伯爵は自信満々に説明を始める。
「王妃様、違いは使っているバラの本数です。従来の香水を作るには2万本のバラが必要でしたが、この香水には10万本のバラが使われております。つまり、従来物より、5倍も濃厚な香りとなっているのです。これほど材料に豪華なものを使っている香水は我が家だけです!」
「ん~、でもね、最近ではクレハ商会の香水の方が人気があるからね。正直、私はそっちの方が気に入っているのよ。」
ホルイン伯爵が予想していた通り、クレハの香水は王妃の耳にも届いており、彼女はクレハ商会の香水に興味を持っているようだ。しかしながら、そのことは既に想定済みである。
「お待ちください、確かに、巷ではクレハ商会の香水は飛ぶ鳥を落とす勢いです。しかしながら、あれは庶民が付けるものです。
王妃様にはふさわしくありません!王妃様にはこの濃厚なバラの香りの香水がお似合いになります。ここまで濃厚な香水を付けることができるのは王妃様以外、私には考えつきません。」
ホルイン伯爵が必死に王妃を持ち上げ、よいしょをしていると彼女もさすがに気を良くしたのだろう。
「あら、そんなに似合うかしら。これを付けて次の晩餐会に参加すれば陛下も褒めてくれるかしらね?」
「もちろんです、王妃様の美しさに、この香水の香りが交われば、陛下も大変お喜びになるでしょう。きっと、他の貴族家のご婦人方からも注目の的です。」
「ふふっ、それは良いわ。陛下に喜んでもらいたいもの。分かりました、次の晩餐会にはこの香水を付けて参加させていただきましょう。クレハ商会のものはまた今度にするわ。」
この瞬間、顔には出していないものの、ホルイン伯爵は内心、クレハに勝ったと考えていた。次回の晩餐会で王妃がホルイン家の香水を使用していれば間違いなく、貴族たちが彼の元に殺到するだろう。そう、クレハの元にではなくだ。
そうすれば、今の状況も逆転することが可能となるため、彼は有頂天になっていた。しかしながら、王妃は気づいていなかったのだ。今までずっと、ホルイン家の香水を使用していたため、濃度が5倍になっている香水のキツさを。
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