第360話 高いものが良いものという訳ではない

さて、クレハ達に捨て台詞を吐き、去っていったホルイン伯爵であったが、当然、このままでは破滅するのは自分達であるため、策を講じようとしていた。


「忌々しい商人が、このままでは破滅だ。しかし、既に貴族どもは奴の香水しか買わんし、一体どうすれば・・・。」


クレハ達に捨て台詞を吐いたホルイン伯爵であったが、憂さ晴らしをしたところで今の現状が好転するわけではない。伯爵がストレスで爪を噛みながら考え事をしていると案を出してきたのはギュラーだった。


「親父、王妃にうちの香水を使ってもらうのはどうだ?」


「ん、どういうことだ?」


「王妃に、食事会とかで香水をつけてもらうんだよ。そうすれば貴族どもに宣伝できるだろ、王妃が使う香水となれば貴族どもも勝手に購入していくさ。」


ギュラーの考えは王妃に宣伝してもらうという非常に安易な考えだった。クレハの香水が世に出る前であれば、効果のあるものだっただろう。しかしながら、今となっては彼等の香水は完全にクレハのものの下位互換となってしまっているのだ。


それはホルイン伯爵も分かっているようで・・・。


「だが、あの男爵は王妃と仲が良いと聞くぞ。そうなれば王妃は向こうの香水を使うだろ。」


「それなら、もっと良いものをくれてやればいい。一瓶に10万本のバラの花を使った超高級品を献上すればいいんだ。それなら、王妃だって奴のまがい物の香水を使わないだろ、うちのは本物の香水だ。」


ギュラーは今のままで王妃に献上できないのであればバラの濃度を上げてやればいいと考えつく。彼は単純に金を掛ければ王妃に献上するものに値すると考えているのだ。


「なるほど、それならば、あの王妃も使わざるを得ないだろう。なんと言っても10万本のバラの香水だ。


そんなもの、いくらかかるか分からないからな、そこまで気を使ってやって献上しているのに使用しないなんて我が伯爵家を愚弄していると言ってもいい。もしも、使わないなんて言えばそちらの方向で責めてやるわ。」


傍から見れば完全に押し付け商売であるが彼らは全く気にしていない。むしろ、王妃が断るようなことがあれば責め立ててやろうと考えているほどだ。


そうして、王妃にとっては迷惑な計画がホルイン伯爵とギュラーの間で進んでしまうのであった。


この事が、王妃にとっても、彼ら、ホルイン家にとっても悲劇を生むことになるのであるが、彼らはそんなことを想像することもできないのである。

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