第359話 帰還とご冥福

「あっ、オーナー、お帰りなさい。学園での生活はどうでしたか?」


学園での生活も終わり、クレハを最初に迎えたのはルークであった。彼は、香水が完成次第、領地に戻り、自らの仕事に勤しんでいたのである。


「とってもいい思い出になりましたよ、一部の貴族と学園長を除けば。」


「あぁ、あの学園長と話にあった貴族の人ですね。でも、香水の売れ行きは順調ですよ、それなら、その貴族も大変な思いをしているんじゃないですか?」


ルークが今の香水の売れ行きを考え、ホルイン伯爵は非常に厳しい状況に立たされているのではないかと考えると先日の一件に関してクレハが説明を行うのであった。


「という訳で、ホルイン伯爵は破産寸前かもしれませんね。あの様子では息子のギュラーもお金が無くて学園に通えなくなるでしょうし。成績優秀者には学費が免除されることもあるらしいですか、彼では無理でしょうね。」


「あぁ、また新たな犠牲者が出てしまったんですね。オーナーは死神か何かなんですか・・・。」


クレハに喧嘩を売ったものは総じて、このような悲劇に見舞われているため、もはやルークからすれば死神といっても過言ではないのだ。


「はて、何か余計なことを考えていますか?」


「い、いえ、そんなことはないですよ。それよりも、あの学園長、ついにバレてしまったんですね。今まで本性を隠していたようですけど、ここまで有名になってしまえば・・・。」


そう、先日の一件以来、学園長の本性はクラスメイト達の口から、徐々に広がってしまい、市中では少しばかり有名になりすぎてしまったのだ。


もちろん、それ自体は犯罪ではないため学園長が今の所、自らの職を失うと言ったことはない。しかしながら、権威ある王立学園の学園長という職務であるため、それを気にする人間も少なからず存在しているのである。


「まぁ、あの人にとっては運が悪かったというしかないですね。それよりも、ホルイン家の方が気がかりです。あの伯爵は去り際に何かしでかすようなことを言っていましたからね。とりあえず、学園長から始末するらしいですよ。」


「はぁ、これ以上関わらなければいいのに。そうして貴族の人って、いつも、引き際が分からないんでしょうね。」


もはや、今がホルイン家にとっては引き際といっても良いこの状況でクレハに何かをしようとしている彼らの考えにルークは呆れてしまうのである。


「まぁ、それに関しては具体的に何かされれば対策をしていきましょうか。実際に、今の段階では商人同士の競争の範囲内での話ですから。被害を受けたとかではないですしね。


学園長は、クビになっても貯金があるでしょうし、生きていけるでしょう。リゼラン先生が路頭に迷ったのであれば私が融資しますけど、彼女に関しては未来もなさそうですし・・・。諦めて、ご冥福だけ祈りましょう。」


「オーナー、確認ですけど、学園長はまだ死んでないですよね?」


「はい、まだ大丈夫ですよ。」


学園長が路頭に迷う前提のクレハの回答にルークは心底、頭が痛くなってしまうのであった。どうやら、ホルイン家との問題はまだまだ続きそうである。

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