第342話 話が違う!
さて、クレハが王立学園に赴任することが決定し、はや、一週間。クレハはここ、王立学園へと足を踏み入れたのであった。
「クレハ様、彼女がクレハ様と一緒に教鞭を振るう職員のリゼラン先生です。彼女は代々、貿易を営んでいる男爵家のご息女です。そのため、商売という点に関してはたぐいまれなる知識を有しており、大変優秀な方です。」
「クレハ様、初めまして。リゼランと申します、この度はクレハ様のような方とご一緒出来て大変光栄です。ぜひとも、よろしくお願いいたします。」
学園長の商会によりクレハと彼女の担当教員であるリゼランが顔合わせを行うと彼女は深々と礼を尽くす。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。ですが、まさかここまで深々としたお礼をなされるとは、ここではこれが普通なのですか?」
クレハはリゼランのあまりにも深い例に何か特別なルールがあるのではないかと考えるもこれはある意味、当たり前のことだった。
「それはクレハ様が男爵家の当主で私が男爵家の娘だからですよ。基本的にはここは大半が貴族のご子息、ご息女が通われている学園ですから、そう言った文化が抜けきらないんですよ。」
「えっと、そんな話は聞いていないんですけど・・・。」
ある意味、貴族の縦社会的な環境が抜けきっていないこの学園の制度を事前に聞いておらず、クレハは学園長に少しばかりにらみを聞かせるのであった。なぜなら、こういった環境には必ず権力を笠にろくでもないことをしでかす人間が少なからずいるからである。
クレハに睨みつけられ、リゼランは気が付いていないが学園長は目をそらし、完全に冷や汗をダラダラと流していた。
「リゼラン先生、少しクレハ様とお話がありますのでここでお待ちいただけますか。」
「えっ、はい、分かりました。お待ちしております。」
学園長はリゼランに同意をとった後、クレハの手を取り、人通りがない場所まで連れてくるといきなり土下座を始める。
「すみませんでした~!」
「で、一体どういうことなんですか。この感じだと絶対に面倒な人間がいますよね。伯爵家とかの子供が親の権力を過信して無茶しているのが容易に想像できますよ。」
「ま、まさか、そんな悪い子はうちの学校に限っていませんよ。一応これでも優秀な人間が集まる学園ですから、はっはっはっ。学園では権力なんて関係ないです。ここは貴族社会とは独立した環境なのですから。」
明らかに動揺しているように見える学園長であるが実はこれは本心なのだ。見た目では完全に怪しい挙動であるがこれはクレハにきわどい質問をされてしまい、ただ単にオドオドしているだけである。
「そうですか、確認ですがそう言う人間がいないという前提で私は今回の話を受けたということでいいんですよね。」
「も、もちろんです。私が責任をもって断言します。そんな不届きものがこの学園には誰一人いないと。」
「なるほど、つまり、もしも、そんな人間がいた日には私が何をしたとしてもきちんと責任をとって頂けるということですよね。」
学園長自身は本心で言っているにもかかわらず、あまりにも挙動が怪しいため、クレハは保険をかけておくのだった。
「はい、それは保証いたします。」
彼女は自身の学園に通う生徒たちを信じているため、このような返しをするが彼女は理解していなかったのだ。自身が学園長であることを。この学園では最も立場が偉い人間であるということを。
クレハの保険が意味を成すことはすぐ先の未来なのかもしれない。
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