第341話 学園でのお仕事
タミトン学園長も一応は正気に戻り、いよいよ本題を話し始めるのであった。
「今回、クレハ様とお話をする機会を儲けさせていただいた理由はうちに講師としてお招きしたかったからです。」
「講師って王立学園のですか?」
「はい、そうです。クレハ様にはうちの商業科でぜひ、教鞭を振るっていただきたいと考えています。」
この王立学園とはコーカリアス王国の最高教育機関であり、エリートたちが集まる場所であると知られている。だからこそ、ここで教鞭を振るうことは一般的に言えば大変名誉な事であった。
しかしながら、クレハ商会とは基本的にクレハの前世の知識を活用することで希少性を武器に成功してきた。そのため、クレハ自身は商売に関して授業を行うと言われても、正直、自分から教えることは何もないのではないかと考えていたのだ。
「あの、正直私なんかが何かを教えることはできないと思っているんですが・・・。」
「何を言いますか、クレハ様はかの有名なクレハ商会の会長様なのですよ。この国に商売に関してあなた以上の適任者はいませんよ。」
「ですが、商業科というのはそもそもどんなものを教えればいいんですか?」
「そうですね、基本的には商売に欠かせない計算、マナー、各地域における名産品の知識など商売に関わることを広く教えています。」
「う~ん、計算はともかく名産品なんて気にしたことがありませんし・・・。本当に私なんかが教えることが可能なんでしょうか?」
ハッキリ言ってしまえば地域の名産品などにはあまり詳しくなく、クレハ自身、商業科で教えている内容を聞き、自分が教えることができるものなど何もないと考えていた。
「教える内容自体は我々が考えるものですし、教員も一人、クレハ様につくことになりますので、クレハ様が行うことと言えば、教員が出題する設問などに自分であればどう対応するのかなど答えることです。その過程や方法を学生たちには学んでもらおうと考えています。
ですので、クレハ様が何も教えることがないということに関しては何も問題ありません。私達が求めているのはクレハ様ほどの商人であればそれぞれの問題にどう対応するのかを解説していただくことです。」
「なるほど、それなら私にもできそうですね。それに、なんだか面白そうです。学校なんて久しぶりですからね、ですが、私も商会のほかに領地での仕事もありますからね。残念ですが、そこまで時間が空いていませんので今回はお断りさせてください。」
仕事の内容自体は面白そうなものであったため、クレハ的には前向きな回答をしたいと考えているのだが、彼女には商会と領主の二つの仕事があるのだ。だからこそ、教員までしている暇などなく、今回の話を断わろうとすると、そこで待ったをかけたのはルークだった。
「仕事のことなら心配しないでください。オーナーがやりたいのであれば我慢せずに学園に行ってくださいよ。
こっちの仕事のことなら僕に任せてください!最近は僕だって一人でできることがたくさん増えたんですよ。こんな時くらいは僕に頼って下さいよ。いつもお世話になっているんですから。」
先ほどから、学園の話を聞く際には目を輝かせ、領主や商会の仕事のせいで学園に赴くことができないと残念がっているクレハを見ていて、ルークはなんだか居たたまれなくなったのだ。
だからこそ、本当は自分一人で何とかなる仕事量ではないが、彼女に好きなことをしてほしいと先ほどのようなことを告げたのである。
「本当にいいんですか、正直、かなり大変な仕事量ですよ。それなのに私だけ楽しんでくるようでなんだか申し訳ないんですが・・・。」
「何言っているんですか、そんなのヘッチャラです!こっちが僕に任せて、オーナーは自分の好きなことをしてきてください!」
「分かりました、今回はルークのお世話になることにしましょう。それでは、楽しんできますね、こっちのことは任せましたよ。」
「はい、任されました!」
こうして、クレハは一人、王立学園へと教鞭を振るいに行くことが決定したのであった。
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