第294話 小心者

クレハがルークを引き連れ屋敷の目の前で騒いでいる人間たちの元に向かうと彼らもまさか貴族である彼女が出てくるとは思わなかったのか、一瞬だけ驚くそぶりを見せるもののちょうど良いと威勢よく、叫び始めるのだった。


「全能薬を独占するんじゃねぇ!さっさと領民にも解放しろ、独占反対!」


「「「「「独占反対!」」」」」


国の規制が始まったというのに未だにそのような事を騒ぎ立てている連中にクレハは呆れてしまい、目の前にいる集団のリーダーらしき人物にバカなことはさっさとやめろと告げるのであった。


「何を訳の分からないことを叫んでいるんですか、全能薬の規制は国王陛下から正式にくだされたものです。今なら知らなかったで済ましてあげますからさっさと解散しなさい。」


「ふざけるな、そんなことを言ってお前たちだけが薬を独占するつもりだろ。貴族ばかりが独占するなんて冗談じゃない、今すぐに規制を解け!」


万が一にも国王が規制を行ったという事実を彼らが知らない可能性もあったため、クレハはあくまでもやさしく彼らに教えてあげるように話すも彼らの口調から完全に確信犯であることは明らかだった。


そうと決まれば、落ち度は100%彼らにある。クレハのほんの少しだけではあるが残っていた情けも今の発言により完全に無くなってしまったのである。


「一つ、お尋ねしてもいいでしょうか?」


「はぁ?急に一体何なんだよ?」


突然、クレハが質問など始めるため先ほどまで叫んでいた彼らもどういうことだ、訳が分からないと言ったような表情を浮かべてしまっている。


「全能薬の規制は国王陛下が宣言されたことにより今や国中で施行されている政策です。であるならば、それに異議を唱えるのであれば王都でこういった活動を行うことが道理なはずです。こちらの方が本当にいいと思っているのであれば効果的ですからね。


だと言うのに、あなた達は性懲りもなくこの場所でこんなことをしています。それって、どういうことなんでしょうね?」


クレハが意味深な表情をしながら尋ねると彼らのリーダーは殺意をむき出しにしてクレハに言葉をぶつけるのであった。


「何言ってやがる、そんなのは俺たちの勝手だろうが!ここが終われば王都だろうが王城だろうが薬を規制するなんて馬鹿げたことを言っている奴らは俺たちがぶっ殺してやる。貴族だからって調子にのってるんじゃないぞ。」


そんな彼の発言を聞くとなぜかクレハは突然、笑い始めてしまった。彼女の突然の奇行に先ほどまでは彼らの発言に圧倒され黙り込んでいたルークでさえも彼女に大丈夫かと声をかけてしまったほどだ。


「ふふっ、くくくっ。」


「あ、あの、オーナー大丈夫ですか?こんな人たちの言うことなんて気にしなくて大丈夫ですよ。オーナーに手は出させませんから。」


ルークはクレハが恐怖のあまり突然笑いだしてしまったのではないかと考えていたがそうではなかった。


「あぁ、違いますよルーク。別に私はこんな小心者に恐怖しているわけではありません。」


「し、小心者だと!言わせておけばふざけやがって。」


抗議者たちのリーダーは自分が小心者と言われたのがよほど腹正しかったのか、先ほどにもましてクレハに向ける殺意が大きくなったのであった。

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