第293話 自分勝手な客たち

クレハが久しぶりに自らの屋敷へと帰るとルークが心配そうに駆け寄ってきた。クレハがここを去る前にはすぐに調査は終わり帰ってくると言っていたがいつまで経っても帰ってこずに心配していたのだ。


「オーナー、お帰りなさい。帰りが遅いので何かあったのかと心配になりましたよ。」


「ただいま、ルーク。審問院の頭が固くていつまでも拘束されていたんですよ。それにしてもこのタイミングで国の規制が始まったのは幸いでした。きっと、王妃様が頑張ってくれたんですね。


ところで、私がいない間に何か変わったことはありませんでしたか?もし何かあれば早めに手を打ってしまわなければなりませんからね。」


クレハは薬は一瞬で広がってしまうため、自分がいない間に何か変わったことがあればすぐに対処したいと考えていたのだ。そのことをルークに尋ねると彼は困った顔をしながらクレハがいなかった間の出来事を語り始める。


「あぁ、実は変な人たちがここにやってきましてね。なんでも、全能薬は危険な薬なんかじゃない、あれは私たち人間の為に作られた素晴らしい薬だ。


その薬を規制し、領民たちから薬に触れる機会を奪うとは何事か!お前にそんな権利はない、今すぐに規制を解いて領民たちを解放しろってわけのわからないことを話す人たちが来たんですよ。説明しても全然話を聞いてくれなくて本当に怖かったんですよ。」


クレハのいない間はルークとドルクスがクレハの仕事を行っていたが彼らの元に突然、訳の分からないことを話しだす人間たちが押し寄せてきたのだ。


彼らは領民を領主の魔の手から解放しろと言い続けており、ルークたちが全能薬の危険性を話そうとも一向に聞く耳を持たなかった。


「それで、その迷惑なお客はどうなっ。」


クレハがルークの話す迷惑な訪問者に関して尋ねようとした瞬間、クレハ達が住まう屋敷に大声が響き渡る。


「聞こえるか、この悪魔が!自分たちで薬を独占するなど恥を知れ!今すぐに全能薬の規制を解け!」


「「「「「そうだ、そうだ、規制を解けーーー。」」」」」


クレハはその叫び声を聞き、その迷惑な客たちが今、どうなっているのか想像がついてしまった。


「なるほど、彼らですか。」


「はい、そうなんです。今のところ実害はないですし、このまま乱暴に追い払ってしまっていいものか分からなかったので放置するしかなかったんですけど、どんどんエスカレートしているような気がします。


それに、薬の規制は国が行うべきだと先日、結論づけたばかりなのにまだあんなことを言っているんですかね?」


先日の国王の発表により、全能薬は国単位で規制されることになったというのに未だにそのような事を叫んでいる者たちがいることがルークにとっては信じられなかったのだ。


「はぁ、ああいう連中は自分の信じたいことしか信じないんですよ、誰が何を言おうと。仮にも私だって貴族だと言うのにあんなことを叫び続けて、完全になめられていますね。


他の貴族だったらすぐに兵士たちに連行させて見せしめに殺していますよ、絶対。まぁいいです、国が規制したのなら大義名分はこちらにありますから忠告しても受け入れないようであれば私も貴族であると言うところを見せつけなければなりませんね。」


クレハは自分の生まれ故郷で散々、傲慢な貴族達を見ていたため、あまりその様にふるまうことは好きではなかったのだ。だからこそ、多少の無礼程度であれば何事もなく目をつむっていた。


しかしながらここまでエスカレートしていくと取り返しのつかないことになってしまうため、今一度、自分が貴族であることを忘れている連中にそれを思い出させようとするのである。

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