第277話 メイドの嗜み

「それにしても大変な目にあったわよね。まさかあれだけ証拠がそろっているのにプアア王妃は認めないんだものね。」


「まぁ、ああいう人間は他人から何を言われたところで自分が信じているもの以外は信じませんよ。それよりも、あのプアア王妃が自分の手で息子を殺してしまったことに罪悪感を感じて自殺したって聞いたんですけど、本当なんですか?」


クレハが王妃とプアア王妃の件に関して話し合っていると彼女に関する噂を思い出し、思わず尋ねてしまう。もちろん、クレハもプアア王妃のあのような様子を見れば噂の内容など信じていないが聞かずにはいられなかったのだ。


「あぁ、あの噂ね。というか、チーリエ王国側が公表した内容でしょ。表向きはそう言うことになっているけど、まず間違いなく嘘でしょうね。表向きで死んでるってことは離宮に隔離しているか、もしかしたらすでにこの世にはいないのかもしれないわね。


今回のことでプアア王妃はチーリエ王国に与えた損害は計り知れないからチーリエ王もできるだけ無かったことにしたかったんじゃないかしら。あそこは昔から臭いものには蓋をするのが得意だから。」


「やはりそうですか、まぁ、私がこれ以上何を言ったとしても意味はなさそうなので忘れることにします。私としてはプアア王妃のおかげでハンバーグが有名になりましたからむしろ感謝しなければならないですしね。」


チーリエ王国が今回の件に関する声明を出すに至って詳しい成り行きも公開されることになったのだ。


その中にはハンバーグ欲しさに自分で材料を手に入れ、結果的には息子を殺してしまったという内容も含まれていたため、ハンバーグとは一国の王妃が息子を殺してでも手に入れたい食べ物という風に変に噂が解釈され広がってしまっていたのだ。


だからこそ、クレハ商会にはそんなうわさ話を信じるものや興味本位からハンバーグを求めるものが後を耐えずに訪れていた。


「サラも言っていたわよすごい人気で今も買えないって。生誕祭の時は自分の仕事をするようにきつく言っていたから流石に抜け出してハンバーグを買いに行くってことはなかったみたいね。


一応、ハンバーグが残ったのなら食べてもいいと言っていたのだけれどあの様子だとどうやら食べそこねたようね。禁断症状みたいに毎日ハンバーグ、ハンバーグってぶつぶつ呟いているわ。」


そう、サラは一度クレハからもらったハンバーグを食べた際に虜になってしまい、もう一度食べられる機会をうかがっていたのだ。しかしながら、プアア王妃の一件で逆にハンバーグの人気に火がついてしまい、今も食べることが出来ずに限界を迎えていた。


「一応言っておきますけど、自分で材料を集めて作るなんてことはさせないでくださいよ。流石にプアア王妃の一件があったばかりなんですから笑えませんよ。」


「まさか、流石にここまで有名になっている話なんだからサラだってそんな馬鹿なことはしないわよ。」


クレハはサラがハンバーグ欲しさにプアア王妃のように自分で材料を集めハンバーグを作るのではないかと考えていたが、王妃はここまで有名になった事件なのに全く同じことをサラがするなんてありえないと笑っているのだ。


「本当にそう思いますか?サラさんならやりかねないかもしれませんよ。」


「そんなことは絶対にないわ。あの子だって普段はあんなだけど、根は優秀な子なんだから大丈夫よ、私は信じているわ。」


サラを信じる王妃の真っ直ぐな言葉にクレハは何故か分からないが思わず笑みが出てしまい、確かに流石のサラでもそんな馬鹿なことはしないかと王妃の言葉に同意しようとした瞬間だった。


バン、と大きな音を立ててドアを開けながら突然サラが入ってきたのだ。そんなサラの手には大きな袋が握られていた。


「王妃様、商人の伝手で何とかハンバーグの材料を手に入れてきましたよ!これでいくらでもハンバーグを食べることが出来ます、ハンバーグパーティーですよ。ヤッホー!


ん?そう言えばこの粉はどうしましょう、とりあえずハンバーグから漂っていた香りのする粉を買ってみたんですけど。まぁ、適当にお肉と混ぜればいけそうですね。私、料理を見れば大体は作り方が分かってしまいますから、これこそメイドの嗜みですよね。


あっ、安心してください。今回は私だけでなく、ちゃんと王妃様の分も用意しますから。それじゃ、レッツクッキング!」


サラはそう言うとすごい勢いで部屋を出ていき、調理場へと向かったのだった。クレハは嫌な予感がし王妃の顔を見ると先ほどまでの発言をすべてひっくり返されてしまった恥ずかしさからかプルプルと震えながら顔をリンゴのように真っ赤にしていた。


「え、えっと、あっ、サラさんを止めないと大変なことになってしまいますよね。私はサラさんを止めてきますね。」


クレハはここにいてはいけないと本能的に察してしまったのか気まずそうにしながらその場を去る。


「サラのバカーーーーーーーー!」


しばらくすると王妃の部屋から大声が響き渡ったのだがクレハはそっと聞かないことにし、急いでサラのことを追いかけるのだった。


余談ではあるがなぜか、その日からしばらくはサラに対する王妃のあたりが厳しくなるのだがサラ本人はその理由を知る由もないのであった。

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