第261話 盗まれるナツメグ
「クレハ、今日は本当にありがとうね。あなたのおかげで最高の生誕祭になったわ。」
「いえいえ、こちらこそ、しつこい貴族から守っていただいてありがとうございます。」
ナタリー王妃がプアア王妃達を追いだしてからというもの、ハンバーグの開発者がクレハということが会場にいる貴族たちに伝わりとにかく大変だったのだ。
クレハとお近づきになりたいと話しかけてくるものや我が国に来ないかとスカウトするものがいたりと、クレハもうんざりしていた。王妃の一声で表面上はそのような事は無くなったが恐らくは秘密裏に接触してくる人間はいるだろう。
「今日でなくてもどこかの貴族がしつこく声をかけてくるようなら相談して頂戴ね、その時は責任をもって私が何とかするわ。」
「ありがとうございます。」
既に日は沈みここでの仕事もなくなったとクレハが一息つこうとすると突然部屋のドアをノックするものが現れる。
「失礼します、ここにクレハ様はいらっしゃいますでしょうか?」
「はい、私ですけど、どうかしましたか?」
クレハが部屋にやってきた兵士に返事をすると彼から信じられないことを聞かされることになる。その報告を聞き、クレハはすぐさまルークの元へと向かうのであった。
ここは今日の生誕祭のイベントで王都にてハンバーグを販売していた店舗の一つだ。クレハが兵士に言われた店に向かうと店は破壊され、さんざんな状態だった。
「ルーク、大丈夫ですか!」
「オ、オーナー、すみません、こんなことになってしまって。」
「そんなことは良いんです、それよりも怪我はしていませんか?」
「はい、幸いなことに連中は盗みに入ってきただけで僕たちには危害は加えていきませんでしたから。」
クレハが兵士に聞かされた報告とはルークが手伝いに来ていた店に強盗が入って何もかも盗んでいったという報告だった。強盗と聞き、ルークに危害を加えたのではないかと心配していたクレハであったがその心配はなさそうだ。
「クレハ、大丈夫ですか!」
「えっ、王妃様、どうして来ているのですか。」
なんとクレハが到着してから王妃も兵士たちを引き連れ、店へとやってきたのだ。
「何言っているんですか、あれだけ城に貴族たちがいてハンバーグを開発したのがクレハだと分かった後に強盗なんて偶然とは思えません。それなら私が招いたようなものなんですから今回の件は私が指揮をとります。」
「いやいや、それならそのような事に向いている人に任せませましょうよ。なんで王妃様自らやっているのですか。」
「それは、こういうのをやってみたかったからよ。」
「何でそうなるんですか!」
まさかの王妃の理由にクレハは思わずツッコんでしまう。クレハはてっきり責任を感じているなど自分を責めるようなことを王妃が言うのではないかと考えていたが彼女の口から出た言葉はやってみたいからだった。
先ほどまでの緊張感が馬鹿みたいに感じたクレハは思わずため息を吐いてしまう。
「はぁ、もういいです。犯人捜しの方は王妃様にお任せいたします。よろしくお願いいたします。それにしても、何の目的でこんなことを。」
「そうね、やっぱりハンバーグが美味しかったから自分でも作りたくて盗んだとかじゃないのかしらね。」
「配分や作り方も分からずにですか?」
「それはほら、材料があればなんとかなりそうじゃない。」
確かにそう言われればそんな気がしないでもないがそれで何とかなるのだろうかとクレハは首をかしげている。そんな中、突然ルークが大声をあげるのであった。
「あー!た、大変ですよ。もしもハンバーグを自分で作るんならマズいですよ!」
「あら、どうして?」
「そうよ、どうしてマズいのルーク?」
「だって、盗まれた材料にはナツメグだって入っているんですよ!あれを少ししか入れてはいけないだなんて盗んだ人たちは知りませんよ。もしも適当に入れて作ったハンバーグを作ったらどうなってしまうか。」
ルークは盗みを働いた犯人のことを心配しているがクレハには大したことではなかった。
「なんだ、そんなことですか。そんなの盗んだ人間の自業自得ですよ。被害者である私たちが気にする必要なんてありません。」
「そうよ、そんなことを知らないで盗んだ本人たちが悪いんだから気にしなくていいわ。まぁ、本当にそうなら犯人捜しはする必要もなく、すぐに見つかりそうね。もしも犯人が見つかったら連絡するわねクレハ。」
「はい、よろしくお願いいたします。」
王妃とクレハはニヤニヤと黒い笑みを浮かべ、犯人が自滅するさまを思い浮かべるのであった。
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