第218話 粛清

「ほう、今までに一度だって悪事を働いたことがないねぇ、なぁ、そこのお嬢さん、俺の記憶では確かさっき、こいつに馬につながれて街中を引きずってやるって言われたような気がしたんだけど、俺の聞き間違いかな?」


タルフ伯爵はムール男爵と話していたかと思うと突然クレハに話しかけてきた。クレハもまさか自分に話を振られるとは思ってもおらずに固まっているとムール男爵がアイコンタクトのようなことをしてくるのが分かった。


どうやら、彼はクレハにそれは聞き間違えだと言って欲しいようだ。無言でいるものの、それ以外のことを話せば絶対に許さないという感情がムール男爵からあふれ出ている。


そんな彼に向かい、クレハはにっこりとほほ笑む。するとムール男爵もようやくわかったようだな、と言いたげにうん、うんと頷いて満足げにしているのだ。


「はい、もちろん伯爵の聞き間違えではありません、確かにそこにいる人は伯爵のことを馬で引きずり回してなぶり殺しにしてやると言っていました。3日間続けてやるって言ってましたね、死すら生ぬるいとも言っていたような記憶があります。」


「なっ!き、貴様!殺してや、ぐはっ。」


クレハが予想外の発言をしたため、先ほどまで満足げにしていたムール男爵の表情は一気に怒りを爆発させる。しかしながら、その瞬間に兵士たちにさらに強く押さえつけられ、言葉を発することすらはばかられてしまう。


「ふむ、やはり俺の聞き間違えではなかったようだな。そう言えば、先ほど君もこの男と何やら言い争うような声が聞こえてきたのだが、一体何を言われていたのかな?」


伯爵がそう話をクレハに振ると顔色を悪くし始めたのは商会長だ、彼だって伯爵が本当に分からずに聞いているわけではないことくらい理解している。


「商人の一人や二人、国王陛下から与えられた権力を使えば消し去るのは簡単だと言っていました。そこにいるヘーデュ商会の人間に依頼を受けて商売に邪魔な人間は消していたと言っていました。その対価として金銭を受け取っていたというようなことも言っていましたね。」


「あぁ、俺もそう聞こえたな、どうやら俺の耳が遠かったわけではなさそうだな。どうやらそこにいる二人も捕まえたほうが良いようだな、兵士たちよ、そこにいる人間も取り押さえろ。」


「くっ、こんなところで捕まってたまるか!」


「な、何をするんだ!おい貴様、ムール男爵を放せ!」


商会長はこのままではまずいとすぐさま逃げ出そうとし、常務はまだこの現状が分かっていないのかタルフ伯爵に突っかかろうとしている。しかしながら、ムール男爵と違い、兵士たちは優秀な用ですぐに二人は捕縛されてしまう。


「さて、国王陛下から与えられた権限を私利私欲のために使うなど言語道断だ、陛下から与えられた権限によりお前たちを重罪と認定する。よって、お前たちからは人権をはく奪する。


現時刻をもってお前たちの存在は人間以下になり下がった。さて、お嬢さん、私はこいつらにはそれ相応の罰を与える義務があるのだが、どういった罰が適切だと思うかな?被害者であるお嬢さんの意見も取り入れたいと思うのだが?」


まさか罰の内容まで聞かれると思ってもいなかったクレハだが、目の前の伯爵を見るとニヤニヤとした表情を隠しきれない様子だった。


つまり、これはクレハに尋ねてはいるものの、答えは一つしかないと言っているようなものだ。どうしてこんな茶番に巻き込むのか理解できないが伯爵に何を求められているのか理解しているクレハはこの場での最善の答えを出す。


「そうですね、先ほど、そこにいる男爵が3日間、日が出てから沈むまで馬で引きずり回すと言っていたのでそれにしたらどうですか?本人が伯爵に行おうとしていた罰なのですから、それが相応しいのではないでしょうか?」


「そうか、そうか、確かにその通りだ。なかなか筋が通っているではないか、それではここにいる元男爵のムールとその他二名は国王陛下に与えられた特権を悪用した罪として3日間、馬に引きずらせよう。お前たち、明日から早速始めるように!」


「「「はっ!」」」


「い、いやだ!離せ!」


「し、死にたくない!やめろ!」


「やだ、やだ、やだ!」


こうして、三人はタルフ伯爵の命を受けた兵士たちに連れていかれることになるのであった。商会長や常務に関しては自業自得ではあるがムール男爵のとばっちりを受けたと言っても過言ではないのかもしれない。

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