第219話 お詫び
タルフ伯爵は三人が兵士たちに連れていかれたのを見届けると再びクレハに話しかけ始める。
「さて、我が国のものが失礼なことをしたね。勘違いしてほしくないのはこの国の貴族が全員がああではないということだ。さっきのは本当に稀な例でね、ああいう風に権力を乱用する人間はほとんどいないんだ。」
「はい、それくらいは理解しています。貴族だって何人もいればああいう人間が現れるのは仕方がないことですからね。」
「まるで貴族の内情を知っているような言い方だ。事前の調査で香辛料を定価で買い取ってくれる別大陸の商会がいるというのは聞いていたから君はただの商人と思っていたのだけれど、もしかしてどこかの国の貴族の方だったりするのかい?」
どうやら、タルフ伯爵はムール男爵の悪事を調査する段階でクレハのことを知っていたようだった。しかし、タルフ伯爵もクレハのことはただの商人だと思っていたようでまさか貴族とは思ってもみないようだった。
「そうですね、一応コーカリアス王国という国で男爵の位を頂いています。ですが私はただの商人としてこの国に来ているので一商人として扱っていただいて大丈夫です。今回は商売のタネになるものをこちらの大陸に捜しに来たので、貴族としてこちらの国に来たわけではないですからね。」
「そうでしたか、それは本当に失礼しました。確かにただの商人としてこちらに来られたかもしれませんが、流石に私も貴族の方と知っていながら放置しているというのも問題になるんですよ。
どうでしょう、今回はうちのバカな貴族が迷惑をかけたということでお詫びに私にこの国を案内させていただけないでしょうか?そうすれば私の体裁も保つことが出来ますし、あなたもこの街以外にこの国にしかないようなものを見つけることが出来ると思うのですが。
一応、ムール男爵に関する調査を行った際にあなたのことも関りがあったという事で少しばかり耳に入ってきたのですがこの街で香辛料しかご購入されていないですよね。
我が国には香辛料以外にも別の大陸で売りさばけるものがたくさんありますのでそちらもご覧になってはいかがでしょうか?」
タルフ伯爵はクレハが貴族であると分かり、そのままさようならとはいかない為、案内という名目で体裁を保とうとしていた。普通の貴族であればそれは監視されていると思い嫌がっただろうがクレハにとって彼の提案は喜ばしいものだった。
知らない国で商品を捜しながら移動をするということはかなり大変なことであるが貴族である彼が案内してくれるのであればそう言った問題が一気に解決することになる。クレハは彼の提案を快く受け入れようと思うのだった。
「本当ですか!それは非常に魅力的な提案です。あっ、ですが伯爵である方に案内などしていただいて大丈夫なのでしょうか?それこそ、逆に問題になってしまいそうな気がするのですが。」
「あぁ、その点に関しては大丈夫ですよ。この国では貴族位の人間が他国の貴族を自分で案内するというのはかなり普通のことですから。そこは大丈夫です、どうでしょう、あなたがよろしければ明日からぜひ、案内させていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「はい、もちろんです!ぜひ、こちらからもよろしくお願いします。明日からが楽しみです!」
こうして、クレハ達はタルフ伯爵の案内の元、この国の観光を行うことになったのであった。
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