第216話 ブーメランな予感

「誰だ、貴様は!気安く触れるでない、下民風情が。貴様も消されたいのか!」


ムール男爵は突然自分の肩に気安く触れてきた目の前の男をにらみつけながら手を払いのける。普段であればそれは正解だったかもしれない、しかしながら今回ばかりは相手が悪かったのだ。


「ほう、お前がこの俺を消すのか。そうか、そうか、そいつは面白いことを聞いたものだ、俺に向かってそんなことを言う奴は久しぶりだぞ。」


ムール男爵の肩を掴んだ男は消されたいのかと脅されているというのにニヤニヤとし始めてしまう。そんな気味の悪さがさらにムール男爵を怒らせることにつながってしまうのだ。


「何がおかしい!貴様、この私に気安く触れておいてただで済むと思うなよ。貴族に逆らったのだ、どうなるか分かっているのだろうな!」


「くくっ、それで、その貴族様に逆らったら俺はいったいどうなってしまうんだ?」


ムール男爵が怒鳴り声をあげているというのに目の前の男性は怯えもせずにさらに笑い始める。そんな男性はあろうことかムール男爵をあおり始めたのだ。


その行為がついにムール男爵の限界を超えてしまう、彼からしてみれば貴族である自分をここまでコケにしてくる人間など生まれてこの方、存在していなかったのだ。


だからこそ、彼はこの目の前の男を許すことが出来ずに死すら生ぬるい罰を与えてやろうと考えるのであった。


「そうだな、この私をコケにしたのだからお前を縄で馬につないで街中を引きずり回してやる。これを日が昇ってから沈むまでの3日間、永遠とやり続けてやる。


お前に死など生ぬるい、自分から殺してくれというまでなぶり続けてやる。お前は見せしめだ、貴族に逆らうということがどういうことかその身をもって味わうがよい!


おい、衛兵、こいつを捕らえて馬に括り付けてやれ!クハハッ、今夜は貴様の悲鳴で良い夢が見えそうだな。ハハハッ。」


ムール男爵は何とも恐ろしい罰を男に言いつけ、すぐさま兵士たちに彼を捕らえさせようとする。しかし、ムール男爵がどれだけ待っても店の外で待っている兵士たちは動こうとせずに逆に気まずそうな顔をしている。


「おい、お前たち!なぜこいつをさっさと捕らえん。この私の命令が聞けないのか、貴様たちもこいつ同様に馬で引きずられたいのか!」


「くくくっ、お、お前マジか。アハハハッ、マジでバカすぎるだろ!」


ムール男爵はいつまで経っても動かない兵士たちにイライラし始めると突然目の前の男が笑い始める。彼はまるで兵士たちが動かない理由が分かっているというような笑い方だったのだ。もちろん、ムール男爵にはその理由が皆目見当もつかない為、さらにイライラし始めてしまうのだった。


「き、貴様いい加減にしろよ、何がそんなにおかしい!」


「アハハッ、だってよお前よりも身分が高い奴に動くなって命令されていたらお前の命令なんて兵士が聞くわけがないだろ、俺の命令に逆らうことになるんだから。」


「へっ?いったい何を言っているんだ?」


先ほどまでは何が何だかよく分かっていないムール男爵だったが、目の前の男の発言によってさらに困惑してしまうのであった。

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