第215話 仲間割れ?

商会長に今日のところは帰って欲しいと突然告げられたムール男爵は先ほどまではクレハに怒りを覚えていたが自分の行いを商会長にとがめられてしまったため、その矛先が商会長へと向かっていた。


「なぜ私が帰らねばならんのだ!貴様がいつまで経っても問題を解決しないからこの私がわざわざ来てやったのではないか、それを何だ貴様。」


「も、申し訳ございません。ですが、準備というものは非常に重要なことなのです。どうか、今回ばかりは私の顔に免じてこの場を治めていただけないでしょうか?」


商会長は心の中でバカなくせに面倒なことをとムール男爵を見下しているものの、そんなことを口にするわけにはいかず、頭を下げ続けている。


しかしながら、貴族であるムール男爵にとって貴族以外の人間に説得されるなどあってはならないのだ。


「何だその口の利き方は!貴様の顔に免じて帰れだと、ふざけているのか。貴様のような人間にそんな価値などない。それに、貴様程度の人間がこの私の行動を決めるだと、何と無礼なことか!


貴様はこの私に恩をあだで返すつもりか!貴様の商売敵が出てくるたびに貴族の権力を使って消し去ることが出来たのは誰のおかげだと思っているのだ!」


ムール男爵はついに商会長への怒りを抑えきれずに怒鳴り声をあげてしまう。彼からすれば今まで商会長には問題ごとが起こるたびに特権を使い何とかしてやった恩があったというのに、そのことを忘れて自分に意見したことが許せなかったのだ。


そんな彼の叫び声を聞き、レストランにいた一般人や商会長、クレハ達は黙り込んでしまう。黙り込んでいないのは商会長がムール男爵に怒鳴られていることに笑いを隠せない常務だけだった。


「おい、貴様!何か言ったらどうなんだ、貴様が商売の邪魔になるから消してほしいと言ってきたから消してやったのではないか!まさか、あの程度の謝礼で恩を返したと思っているのではないだろうな、貴様がよこした金程度で釣り合うと思うなよ!」


ムール男爵は未だに自分の言っていることがどれだけ問題なのか気が付いていない。だからこそ、ムール男爵の発言に固まってしまっている商会長がいつまで経っても自分の言い分を無視して黙り込んでしまっていると思い込んでいるのだ。


「ム、ムール男爵!どうかこれ以上は何もしゃべらないでください!」


商会長はこのような場所で自分たちの悪行をばらされてしまい、このままではまずいと必死にムール男爵を止めようとするも彼はその意図に気が付かず、さらに怒りのボルテージを上げてしまうだけだったのだ。


「貴様、消されたいのか!」


ムール男爵は商会長の胸ぐらをつかみ、彼のことをにらみつける。正直、クレハからしてみればよそでやってくれと思うようなことだったが自分たちに危害が加わらなさそうなため、安心していた。


しかし、いずれは彼の標的も商会長からクレハに向かってしまうため、どうすればこの局面を乗り切れるのか考え込んで込んでいたのだ。


「消えるのはお前だな。」


そんな時だった、胸ぐらをつかんでいるムール男爵の肩を叩き、声をかけるものが現れたのは。

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