第91話 王妃の企み
あの日、王妃の部屋を尋ねた人間にルークは直ぐに帰るように告げられる。必ず、ロドシアのことは何とかするから信じてほしいと。相手が相手だけに、断れる筈もなく、それ以上はどうすることもできなかった。
事件からしばらく経ち、クレハとルークの二人は王妃の部屋に呼び出された。二人が部屋に入ると王妃、サラそしてロドシアが待っていた。本来はいるはずのないロドシアがここにいることに二人はとても驚いていた。
「まずクレハ、今回のことは本当に迷惑を掛けました」
その言葉と共に王妃とサラ、ロドシアの三人は頭を下げる。
「あの、これはいったいどういうことなのでしょうか?」
クレハはどうしてロドシアがここにいるのか分からず、困惑している。ルークもあれから詳しい話を全く聞いていなかったため、事態を把握できていない。
今回、どうしてロドシアがこのようなことに及んだのか、王妃からすべてを聞かさせる。このことに関して、ルークは既に本人から聞いていたため、あまり驚いていなかったがクレハは違う。初めてこの話を聞いたルークと同様、彼女も気づけば涙があふれていた。
「そんなことが、大変だったんですね。グスッ、今まで本当につらかったと思います」
「会頭、本当に申し訳ございませんでした。あなたが誘拐されたのは私のせいです。ごめんなさい、ごめんなさい」
ロドシアは地面に膝をつき、何度も何度も土下座し、クレハに許しを請う。
「もういいですよ、私も無事でしたし。それに、ロドシアさんが自分の意志でやったわけでなく、アルタル王国に無理やりやらされていたのですから」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
ロドシアが自分の意志で今回のようなことを行ったのではないと分かり、クレハの心の靄が晴れていくのが感じられる。しかしながら、今回のことは戦争を引き起こした行為でもあり、いくら自分の意志で実行はしていなくても許されるようなことではないと考えていた。
「ですが、ロドシアさんはよく無事でしたよね?今回のことは流石に王妃様の進言があったとしても無事で済むような事態ではなかったと思ったのですが」
ロドシアが無事だった理由は王妃が語り出した。
「陛下の一声で助かったんです。ロドシアがアルタル王国に無理やり働かされていると分かったあの日、私の部屋に陛下がいらしたんです。驚いたことに、すでに陛下はそのことを知っているようでした。そこからの陛下は騒ぎ立てる貴族たちをすべて黙らせ、ロドシアを死刑にすることは何とか、免れました」
「そのようなことが、ですが陛下はすごいですね。今回のことはかなりの人数の貴族たちが騒いでいたのではないですか?」
「それがあなたを呼んだもう一つの話につながるのよ。戦争のことに関してね、クレハの言っていた情報通り、我が軍の剣と打ち合った瞬間に向こうの剣は簡単に折れてしまったみたいね。
その結果、敵はパニックに陥り瞬く間に敗走していったわ。わが軍はそのまま王都に侵攻して、国王に降伏勧告をしたけれど、最後までそれに応じなかったから、そのまま攻め入ったみたいね。
その結果、アルタル王国の領土はすべてコーカリアス王国の領土となったわ。あなたの情報のおかげで簡単に領土が手に入ったって陛下が大変感謝していましたよ、あなたの作戦によってアルタル王国に勝つことができたって」
「もしかして、今回の戦争で得た利益を騒いでいた貴族達に与えて、ということですか?」
「その通りよ、本当にあなたは優秀ね。陛下は貴族達に領地の拡大をちらつかせれば喜んで静かになったと言っていたわね。今回の戦争で得た領土はかなり広大だから陛下も管理してくれる貴族たちがいるのであればと。その点に関しても都合がよかったみたいね」
戦争の結末を話す王妃の様子が次第に何かを企んでいるようなものになっていく。
「クレハ、あなた男爵にならない?今なら陛下のお墨付きよ!」
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