第92話 クレハの決意
その言葉にクレハは驚く、ただの平民が一国の王妃から直々に爵位を与えると言われているのだ。しかも、国王のお墨付きだと言われればさらに混乱する。
「ちょっと、待ってください、どうしてそうなるのですか?それに今まで言っていませんでしたが私は元とはいえ、ライスオット帝国の貴族家の出です。そんな私がこの国の貴族になるというのは分不相応です」
「あら、あなたの功績無しでは、ここまでの領土は手に入れることができなかったのですから当然でしょ?それに、あなたがシルドラ伯爵家の出であるということは知っているわ。すべてを知ったうえでの提案よ。
男爵家になってくれるのであれば、大きな街を一つとその周辺の村や領地を任せます。あなたのアイデアでよりよい街を作ってほしいの、税金のことは心配しないで、私が陛下に口添えしておいたから、数年間は納めなくていいわ。
数年後にも収める税金はほとんどあってないようなものだから街に投資するもよし、商会の商品に投資するも良し!もちろん、商会の仕事は貴族になっても問題なく続けられるわ。今回の功績はそれくらい大きなものなの」
その提案に乗り気なのはルークだ。
「オーナー、こんなチャンスを逃したらダメですよ。きっとオーナーが治める街なら素晴らしい街になりますよ!やりましょう!」
「たしかに、こんなチャンスは後にも先にも今回限りですね。ですが、私には街を治めるだけの能力はありません」
「それなら心配ないわ、そのあたりは詳しい人間を紹介するから。ねぇ、やってみない?」
王妃とルークの言葉にクレハは決心をつける。
「王妃様にそこまで言っていただけるのであれば、やってみようかと思います。よろしくお願いします!」
「分かったわ、あなたは今日からビオミカ男爵を名乗りなさい。あなたの名はクレハ・ビオミカよ。あなたに似合う名前を考えていたの。さて、そうと決まれば必要になる人間を手配するわね!」
「ありがとうございます。ですが、これでピトリスの街ともしばらくお別れですね。あの、ルーク、お願いがあるのですが、ピトリスの商会は他の従業員たちに任せて運営していきますから、あなたは私と一緒についてきてくれませんか?」
クレハは不安そうにルークに尋ねるが、その答えは元から決まっていた。
「もちろんですよ、いやって言っても絶対についていきますからね!オーナー、これからもよろしくお願いします!」
「ありがとう、ルーク。とっても嬉しいわ」
「それでね、もう一つお願いがあるの」
王妃はなんだか困ったような顔をし、恐る恐るクレハに尋ねる。
「今回の件は陛下のおかげでロドシアが処刑されることは無くなったわ。でも、さすがに他国のスパイだった彼女を私のメイドとして使えさせることはできなくなってしまったの。だからね、もしもあなたがロドシアのことを許してくれるのであれば彼女をあなたの商会で雇ってもらえないかしら?」
「あの、オーナー!僕からもお願いします!もう一度彼女にチャンスを与えてくれませんか?」
王妃がクレハに頭を下げ、ロドシアのことを雇ってほしいと頼んでいる。それを見たルークも、クレハにお願いする。ロドシアの昔話を聞き、今度こそ彼女には幸せに生きてほしいと感じたためである。
クレハもロドシアがサラを守るために、いやいや協力していたことを知った時から彼女に対しての悪い感情は無くなっていた。そのため、クレハはロドシアを新しい従業員として雇うことを決心する。
「もちろんです、ロドシアさんは今日から私の商会の従業員です。あなたにはクレハの湯の店長をやってもらわないと困りますから、これからよろしくお願いしますね!」
「はい!会頭のために精一杯働きます!」
それから、しばらく何気ない話をした後にクレハとルークはクレハの新たな領土に出かける準備を行うために、王妃の部屋を去る。その去り際、去り行くルークをロドシアが呼び止める。
「ルークさん!」
「はい、なん」
その瞬間、ルークの唇をロドシアがふさぐ。
「ありがとう、あなたのおかげでこれからも生きていけるわ」
ほんのわずかな瞬間、ルークの唇をふさぐと耳元でささやく。その瞬間、王妃の部屋が静寂に包まれる。
「ふぇ、えっ」
ルークは突然のことにあたふたして、顔は真っ赤に茹で上がっている。しかし一番の問題はその後ろでプルプルと震えているクレハだった。
ロドシアはルークのおかげで自分の本音を話すことができ、サラを悲しませないでいられると思っていた。しかし、あの日のことはルークがクレハに内緒で行動していたため、クレハはそのことに関しては一切知らない。
「ロ・ド・シ・ア!あ、あ、あなた何をやっているのですか!やっぱりクビよ、クビ!ルークになんてことを!」
その日、クレハ商会には新たな仲間を一人、迎え入れるのであった。そして、コーカリアス王国の貴族位にビオミカ男爵位が誕生した。
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