第90話 最強の助っ人
「これが私のすべてです。あの後、私は王妃様の元に潜入するように言われ、承諾しました。それから数日経ち、王妃様が孤児院にいらっしゃったんです。私は必死に王妃様に選んでいただく為にアピールをしました。
もしもここで、選んでもらえなければ、あいつがサラに何をするのか分かりませんでしたから。そのかいもあってか、運がいいことに王妃様からご指名を頂きました。そう、あの日から、私の行動すべては偽りだったんです」
ロドシアが振り返り、ルークを見上げると涙を流しているようだった。
「ヒクッ、ヒクッ、そんなことがあったんですね。ロドシアさんはサラさんを守るためにずっと戦っていたんですね」
「何であなたが泣いているんですか?そこは初めから裏切っていたのかと、怒るところじゃないのですか?」
泣きたいのはこっちだと、先ほどまでは考えていたが目の前で自分以外の人間が泣いているものを見ると案外冷静になるものだ。いつの間にかロドシアは泣き止んでいた。
「怒れるわけ、ないじゃないですか。やっぱり、あなたはオーナーの考えていた通りのいい人です!」
「私はいい人なんかじゃないわ。それに、もう遅いわよ。私は戦争の引き金を引いた大罪人、そのうえ、王国の王妃を騙していたなんて、死刑じゃ生ぬるいくらいの罪だわ。アルタル王国には私ともう一人の彼が捕まったことは見張りの人間から伝わっているはず。
彼らからすれば私なんていくらでも替えのきく捨て駒。彼らが気にするのは私が王国との関係性を墓場まで持っていくこと。それを見届ければすぐに私のことなんて忘れるでしょうね。心残りは、あいつらが私の代わりとしてサラに手を出さないかが心配ね。サラさえ助かれば、私がどうなろうと問題ないわ。
ねぇ、同僚さん、私が処刑された後、サラに愛していると伝えてくれませんか?王妃様にはお仕えできて光栄でしたと。それと、会頭には迷惑かけてごめんなさいって伝えてくれますか?
・・・はぁ~、宿のお仕事は楽しかったのにな。許されるのであればもう一度、あのお風呂に入りたかったわ」
ロドシアの絞り出す最期の望みにルークはうなずくことはなかった。
「そんなの、僕は絶対に言いません!言うなら自分の口で直接言ってください!王妃様にも、オーナーにも、サラさんにも、自分の口から直接謝って怒られてください!」
「どうしてよ、ここまでのことをしたのよ!私は間違いなく死刑よ、せめて最後の言葉くらい届けてくれてもいいじゃない!」
「いいえ、絶対に僕からあなたの言葉を代弁するなんてことはしません。僕があなたを絶対に助けてみせます!だから必ず自分の口で伝えてください!」
ルークはロドシアにそう告げると自分のなすべきことをするために、走り出す。ロドシアの残された時間は残り少ない。それまでに何としても、彼女を助ける方法を見つけなければならない。
ルークはロドシアがなぜ今回の行動をとったのかを知ったため、どうにかして彼女の罪を軽くできないかと考えていた。そこで、ロドシアとの面会を許可してくれた王妃の元に行き、先ほどの話をすべて打ち明けていた。
もちろん、最期に伝えてほしいと言われたことに関しては一切伝えていない。ルークの話を聞き、王妃は心から涙していた。確かに、彼女のやったことはこの国に対する裏切りに違いない。別れ際に今回の裏切りはすべてお金のためだと言われた時は今までの思い出が全て嘘だったのかと心から悲しんだ。
しかし、それはロドシアの本心ではなく、すべてはサラを守るためだったのだ。大切に思っていたロドシアがお金のために裏切ったわけではないと分かり、心から安心していた。
「ありがとう、ルーク。あなたがいなければ、私はロドシアを一生恨んだまま残りの人生を過ごしていたと思います。それにサラも真実を知ることなく、心残りだったでしょう。本当によくやってくれました」
「僕はオーナーが悲しむ姿を見たくなかっただけです。自分のやりたいことをしただけなのでお礼なんて不要ですよ、王妃様」
「あらあら、こんなに自分のことを思ってくれるナイト様が身近にいるなんてクレハは幸せね。私はあなた達のことを応援しているわよ!」
王妃はニヤニヤしながらルークに笑顔を向けると、ルークは次第に顔が赤くなっていく。自分の心に秘めている気持ちを王妃に見透かされたようで恥ずかしかったのだ。
「う~っ、どうしてそのことを知っているんですか~」
「そんなの、見ていれば分かりますよ、むしろどうして分からないと思ったんですかね?」
ルークは恥ずかしくなり話題を変えるために、再びロドシアの話をする。
「それよりも王妃様、ロドシアさんが裏切ったのはサラさんを守るためで、悪いのはアルタル王国です。これなら、ロドシアさんは罪に問われることはないですよね?」
「ルーク、残念ながらことはそう簡単ではないのです。すでに戦争は始まっていますし、ロドシアが行ってきたスパイ行為のせいでアルタル王国にどこまで情報が洩れているのかもはかり知れません。貴族たちの中には一刻も処刑しろと騒ぎ立てているものもいるくらいで、もはや陛下ですら手に余る状態です。
いくら王妃である私から無罪にすることを呼び掛けても、陛下は刑を実行するでしょう。陛下はお優しい方ですから、今の話をすれば確かにお許しになると思います。ですが、それでは貴族たちに示しが付かないのです。今回の件を国王一人の裁量で覆してしまえば、貴族たちとの大きな軋轢を生んでしまいます。陛下には進言してみますが、結果はおそらく・・・」
王妃の顔からは涙があふれ出ており、声を漏らさずに泣いている。王妃としての振る舞いなのか、人前では泣き叫ぶことはしないと決めているのだろう。それでも、王妃から聞こえてくるくぐもった声はその悲しさを物語っているようだった。
「ナタリー、その必要はない。ロドシアのことは私が何とかしよう。もちろん、ロドシアを見張っている賊もだ!」
王妃が悲しみに暮れていると部屋にとある人物が入ってくる。彼がロドシアの今後の運命を左右することになる。
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