第89話 サラのために

「キャー!」


翌日、まだ寝静まっているものもいる孤児院の中に悲鳴が響き渡る。その悲鳴を聞き、何事かと皆悲鳴の元へ集まってくる。


「どうしたの?」


「ねぇ、誰の声?」


「怖いよ、しぇんしぇ」


孤児院で暮らしている子供たちは今まで経験したことがない事態に、興味を抱いているものや怯えているものと様々だった。


子供たちや孤児院の大人たちが悲鳴を上げた子供の元に集まると皆、黙り込んでしまう。そんな中、ロドシアも何があったのかを知るためにサラと共に急いでやってきた。


「ナナちゃん、いやーー」


「う・そ、どうして・・・」


そこにあったのはナナという名前の少女の亡骸だった。すでに息を引き取ってから時間が経過しており、手の施しようがなかった。サラは泣き叫び、力なくうつむいてしまう。ロドシアは目の前の現状を受け入れることができず、頭の中が真っ白になっていた。


子供たちには見せてはいけないと、すぐに大人たちが子供たちを部屋に返し始めた。ロドシアにも帰るように告げるが彼女は放心状態で一歩も動けないでいた。


数日後、子供たちの心は先日の事件によって晴れぬ中、ロドシアに再び面会を訪れる者がいた。大人たちはロドシアがナナの件で、ここ数日間元気がなかったため、今はまだ面会をしないほうが良いと考えていたが、それを望んだのはロドシア本人だった。


ロドシアはサラとナナの二人と特に仲が良く、いつも一緒だった。そのため、サラは今でも元気がなく、食事をまともに取ることさえできないでいた。


しかし、ロドシアは違った、大人たちが面会のことを告げに行くとサラと同様にふさぎ込んでいるかと思っていた彼女だったが、そのようなことは全くなかった。


なぜか殺意のこもったような復讐心にかられるような顔をしており、いつも接していた大人たちも本当にロドシアかと疑いたくなるほどだった。面接を行うかとロドシアに尋ねると彼女はためらうことなくそれを了承する。




「ようやく来たか、それで人形になる決心はついたか?」


「あんたが!ナナを殺したのか!答えろ!」


ロドシアを訪ねたのは先日、彼女の元を訪ねてきた、あの人間だった。例の人間が見えると、ロドシアは机に紙をたたきつける。彼女がいきなり怒っていたのはこの紙が原因だった。




愚かな人形へ


さて、この紙を読んでいるということはお前の親友であるナナという奴が死んでいるということだ。初めに言っておこう、これはすべて貴様の愚かな行動が招いた結果だ。


言われたことをできない人形には価値がない。先日の話を断わったから、このような結果になった。あの娘はお前が殺したも同然だな。


そういえば、お前が仲良くしている娘はもう一人いたよな、確かサラといったか?姉妹の真似事など愚かなことをしているものだ。


今度はいったい誰がお前の目の前から消えてしまうのだろうな?楽しみにしているとよい、次は賢い選択をすることを願っているぞ。




「それに書いてあることがすべてだ。それ以上でも、それ以下でもない。娘を殺したのは私ではなく、お前だ」


「ふざけるな!そんなことで、ナナを、あの子を殺したのか!」


「ピィピィ喚くな!高々、1人死んだだけだろ!さっさと先日の話を受けろ、今度は一人では済まないぞ。もちろん、その中にはお前の妹も含まれている。お前の妹はいったいどんな最期を迎えるのだろうな?」


男は人間が死ぬことを何とも思っていない。一人や二人、死んだところで気にも留めない。ニヤニヤと悪い笑みを浮かべ、もしもロドシアが言うことを聞かなければサラがどのような目に合うのかを遠回しに伝えてくる。


「サラには手を出すな!そんなことをすればお前を殺してやる!」


「ならさっさと言われた通りに動け!お前が言うことを聞かないのであれば何人でも、お前の前から消えていくぞ!」


男は机を力強くたたき、ロドシアを怒鳴りつける。先ほどまではナナを殺されたことにより、怒りを表していた彼女であったが、まだ幼い子供なのだ。ロドシアはそんな男の態度に恐怖し、肩を震わせてしまう。


「本当に言うことを聞けばサラには手を出さないの?」


「もちろんだ、私は約束は守るからな、そこは信用してもらって大丈夫だ。だが、裏切り者には容赦しない。我々はいつでもお前を見張っている。もしも、裏切るようなことがあればどうなるか分かっているな?お前はあの子の姉なのだろう?それなら守って見せろよ、姉妹っていうのはそういうもんだぜ」


「わかった、言うことを聞くわ」


(サラ、あなたのことはお姉ちゃんが絶対に守って見せるから。もう絶対に誰も死なせやしない!)

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