第38話 ビキニ鑑賞会

 テオ村の解放からひと月ほどすると、荒廃していたテオ村の復興も進んでほぼ以前と変らない状況にまで回復してきた。食生活は、普段よりむしろがいいくらいなので村民たちはふっくらと肉つきがよくなってきている。女性たちの身体つきも見てわかるくらいムチムチになってきた。

 そこで新しく傘下に入った西の三村の人々との親睦のために日を決めて全員で海水浴に出かけることになった。行き先は以前テオフィリアとウインドサーフィンをしたあの海だ。むろん親睦というのは名目で、本当の目的は村の新鮮な若い女子たちにビキニを着せて俺が鑑賞するためである。



 海に着くと俺はサングラスをかけてビーチチェアに寝そべり、チェニックの胸元をはだけさせた。そして傍らのテーブルに用意されたカクテルを口にする。このカクテルはジンジャエールをもとに開発したものだ。

 頭上で陽射しを遮っているビーチパラソルは、カジノ店長のコロイボスが立ててくれた。カクテルを用意してくれたのも彼である。彼は執事のよう気が利いててきぱきと働くので気持ちがいい。

 リラックスしながら、きらきら光る海で遊ぶ人たちを眺めていると、ここしばらくの疲れが癒されるような気持になった


 あれから西の三村も東の二村と同じく、俺たちの傘下に入りたいと申し出て来たので受け入れることにしたのだった。

 これによってカデス村を除いた、北レクリオンの六村のうち五村がワゴンブルグ王国(仮)の傘下ということになったのだ。


 水着に着替えた子どもたちがはしゃぎながら海に向かって走って行く。

 そういえばこの世界には海水浴の文化はなかったんだよな。俺が現代日本から持ちこんだものだ。そのことを思うと不思議な気持ちだった。


 俺の王国。俺の国民たち。

 幸せそうに楽しんでいる人々を見ていると愛着がわいてくる。王国をもっとデカくしたいという欲望も芽生えてきた。何となくノリで引き受けただけの王だが、王座の座りごごちは悪くない。


 波打ち際で遊ぶ若い女の子たちの声。何と言っても彼女たちが王である俺をチヤホヤしてくれるのが気持ちよい。まるで無料のキャバクラみたいな。

 新たな三つの村が王国の傘下となった日の夜の飲み会での、村娘たちによる歓待は凄かったな。テオフィリアがいなけば確実に酒池肉林してたと思う。惜しい。実に惜しい。

 いっそこの勢いで美人秘書でも募集してやろうか。ハーレム用に金箔をはった超大型魔動車でも作らせて、そこに北レクリオン中の美女を集めるとかどうだろう。移動ハーレムだ。


 そのようなことを妄想していると、同年代の村娘と波打ち際で遊んでいたテオフィリアが、何かを感じ取ったように俺のほうに近づいて来た。

 テオフィリアは真新しい水着を身に着けている。それは前に俺が作ったビキニにインスパイアされてアミュモネが新しくデザインしたものだ。飾り気がなかった前の水着とは違って、流行を押さえた華やかな感じのものに仕上がっている。

 サンダルも花をあしらった可愛らしいもので、これもアニュモネの作品である。

 このアミュモネデザインの水着とサンダルは若い女性たちに大人気で、売れに売れまくっているらしい。ペロエの町では転売されて高額で取引されてるくらいだとか。


 テオフィリアはビーチチェアに寝そべる俺の膝の上に腰掛けると、かすかに日焼けしたすらりとした脚をクロスさせた。そして俺の顔を見おろしながら言った。


「海に来てからトモくん、女の子の胸ばっかり見てるらしいわね」


「……誰に聞いたの?」


「バルカン」


 ちっ。バルカンの奴め、チクリやがったな。

 そう思って奴の方を見ると、波打ち際で懸命に女の子を口説いている最中だった。  その娘はテオフィリアがさっきまで一緒に遊んでいた村娘だ。

 そうか。バルカンの野郎はあの村娘を一人にして口説きやすくするために、一緒にいたテオフィリアを引きはがす口実として俺を利用したのだ。何て卑劣な。

 バルカンは一見、豪放磊落ごうほうらいらくそうに見えるが、女が絡んだときはいつもこんなセコい卑劣漢になるのである。


「トモくん。なんか調子に乗ってない?」


「えっ?」


「王様だとか何だとか持ちあげられてさ」


「そんな風に見えるかい?」


「全身にイキってる感が出てるわよ」


「どこが?」


「こういうとこ」 


 彼女はそう言いながら、俺のはだけた胸元とサングラスに指先でちょんちょんとふれた。

 そう言われると、たしかに新興国の成金みたいだった。 

 俺は膝に置かれたテオフィリアの手の甲に自分の手を重ねた。そして可能な限り良い声を出して言った。


「王宮ハーレムが出来ても、テオフィリアだけは特別扱いするからな」


「何を言ってるのかしらこの人は」


 テオフィリアは顔をしかめた。


「またあれやるか?」


「ウインドサーフィン?」


「うん」


 あれから、ペロエの町の職人に頼んで、前に作ったウインドサーフィンの機材とほぼ同じものをもう一揃え作ってある。


「やりたい」


「じゃあやるか。重いからメガメーデも呼ぼう」


 車のところに戻ると、屋根に積んでいた二つのセイルとボードを三人で降ろして渚に運んだ。

 相変わらずクソ重い。俺はテオフィリアと二人で、前に作ったボードを砂浜の上を引きずりながら運ぶ。彼女は時々ふざけて、わざと力を抜いたりするので余計に時間がかかった。


 それに対して鋼鉄のような肉体をビキニで覆ったメガメーデは、軽々とひとりで機材を抱えて歩く。すぐに運び終わったのでこっちのボードを運ぶのも手伝ってくれた。ブロンズ色に日焼けしたメガメーデは、ビキニを着るとまるでボディービルダーのようだった。


 波打ち際で準備を終えると、初めてウインドサーフィンを経験するメガメーデに乗り方を教えるために、まずは俺が自分で乗って見せた。ちょっと不安があったが、前にこの海で一度乗ってるのでスムーズに風に乗れた。

 調子が出て来た。

 近くで遊んでいた女の子たちも集まって来て、俺のジャイブに手を叩いて歓声をあげる。気持ちいい。

 バルカンが必死に口説いてた女の子も、今はバルカンほったらかしでこっちに夢中だ。ざまあみろ。


 俺は散々に浜で注目を浴びて満足したので、ボロが出ないうちに元の位置に戻ってボードを降りた。

 次はメガメーデの番だ。初めてだから手取り足取り指導した。

 しかし、運動神経抜群のメガメーデは、教えたらあっという間に上手くなってすぐに師匠の俺を超えた。

 それどころか勝手にアレンジしてジャンプとか出来るようになってしまった。ボードから降りたメガメーデの周りには若い女の子の人だかりが出来た。きゃあきゃあと騒がれている。そいつらはさっきまで俺を見て騒いでいた女の子たちだ。


「短い春だったわね」


 テオフィリアが笑いながら言った。これが下克上かと思った。

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