第36話 テオフェリアとの夜
「聞いて。一人で風呂に入ってたら、カサンドラさんが来て背中を流しますって言ってきたんだ。一度は断ったんだけど……」
「トモくん。どうしていつも
「そ、それは……」
俺は口ごもった。
「どうして?」
「この前みたいにテオフィリアが来るかもしれないと思ったから……」
「私といたかったからなの?」
彼女の声がいくぶん柔らかくなった。
「うん」
正確に言うと、風呂でこの前の続きがしたかったからだが。
「もう……。いつも一日中ほとんど一緒にいるでしょ」
テオフィリアが機嫌を直したようなので、風呂から上がって一緒に車に帰った。そしていつものように俺は一人で寝るために運転席に入った。
「トモくん」
しばらくして、後ろからテオフィリアの声がした。
「ん?」
「こっちで一緒に寝ない?」
「い、いいの?」
車が新しくなったことで荷室部分も随分と広くなっている。今ではセミダブルベッドくらいのスペースがある。二人で寝るとしても充分な広さだった。
俺は自分の枕を抱えて運転席を出て、車体後部のドアから車に入り、横座りするテオフィリアの隣に自分の枕を置いた。敷布団からは彼女がつけている甘い香油の香りがした。
「美人サキュバスに触ってもらって気持ちよかった?」
テオフィリアが横に座った俺の太ももをつねりながら尋ねた。
「あの……テオフィリアさん。怒られるために俺は呼ばれたんですか?」
「分かってるわ。どうせトモくんのことだから、どうしていいかわからずに固まってるうちにカサンドラさんのペースにされたんでしょ」
「……」
完全にお見通しだが、そんな風に思われているのもちょっと癪だった。その通りかもしれないが俺的には風評被害だ。
「ふう……。 君には本当のことを言うよ。
彼女のプライドもあるし、ある程度までは我慢するつもりだったんだけど、度を越したら椅子を蹴って男らしく言うつもりだったんだ。きっぱりとね」
「え……? 思いっきりリラックスして座ってるように見えたけど……」
「ちょうど立ち上がろうと決心したときに君が来たんだ」
「うふふ。何を言おうとしてたの?」
「こんなことはやめるんだ。もっと自分を大切にしたまえ」
「あははははっ! 絶対言わないでしょ」
彼女は噴き出し、お腹を抱えて大笑いした。しかし、やめてくれと心の中で何度も言ったのは事実なのだ。
「考えてみたらまだテオフィリアの裸を見てないし、別に約束を守る必要ないんだけどね」
「そんなに見たいの?」
笑いすぎて涙目になったまま彼女が尋ねた。
「うん」
「しょうがないなあ」
「見せてくれるの?」
「ちょっと後ろ向いててくれる?」
言われた通りに後ろを向くと、背後で衣擦れの音が聞こえた。
もういいよ、と言われたので彼女の方を見た。テオフィリアは胸をかくしたまま恥ずかしそうに背中を向けていた。
「今まで男の人には誰にも見せたことないんだから……」
頬を赤く染めながら彼女は言った。
「こっち向いて」
俺の要求に彼女は胸をおさえたまま、おずおずとこちらに身体を向ける。
「手、どけて」
テオフィリアは一瞬のとまどいの後で、胸をかくしていた両手を下ろした。窓から射すささやかな月明かりに照らされて、彼女の完ぺきな白い裸体だけが蛍光を発してるみたいにぼんやりと浮かびあがって見えた。
「奇麗だ……」
「はいっ。もう終わり」
テオフィリアはそう言うと、すぐに胸を隠して脱いでいた服を身にまとった。
「これでもうトモくんは一生、他の女の子の裸を見れなくなったわねぇ」
彼女は俺の目をのぞき込むようにしながら茶化すような口調でそう言ったが、恥ずかしさからかまだ顔を紅潮させたままだった。
「ストリップ劇場が出来たんだけど……」
「残念ね、トモくん」
「でもテオフィリアのをいつでも見れるからいいか」
「私が気が向いたときだけよ」
「その時はこう、開いてガン見していい?」
「そ、そのうちね……」
「見るだけ?」
「見るだけよ。 ……今は」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます