第32話 再々々レベルアップとミニ独立国の立ち上げ

 野盗が討伐されて街道が安全になったこともあり、ワゴンブルグに訪れる客はさらに増えた。冒険者ギルドが出来たこともあって、最近は特に若い男性客や冒険者を見かけるようになった。

 するとそれらの男性客向けの夜の店が出来た。娼館とストリップ劇場だ。どちらもゾラの町にある店の支店で、もちろん魔動車による移動店である。

 そういう店があると子育てとかの環境的にはどうかと思うが、この世界の人はあまりそういう事は気にしないようで、単純に客が増えたと皆喜んでいる。



「ト〇タハ〇エース85年式から、ト〇タハ〇エース89年式にレベルアップしました」


 同じころ俺の車は再びレベルアップした。新しい車は荷室部分が独立したキャビンになったタイプで、今までの車よりかなり広くて天井も高い。


 スペースに余裕が出来たので、オプションでキャビン後部にトイレルームを付けた。よくわからんが排泄物はドワーフのバイオ技術によって分解されるらしい。

 トイレは女性たちに大好評で、テオフィリアと友達の女性たちにすぐに占領されてしまった。おかげで俺自身はこれまでどおりに草むらで済ませている。テオフィリアが夜に使う時には、しばらくの間、車から追い出されるのでかえって不便になったくらいだ。でも、まあ喜んでくれるので作ってよかったと思う。


 車の外見はフロント部分が4灯だったのが2灯になった。バブル期の車なので内外装ともに豪華で質感が高く感じる。

 結界の半径は今回のレベルアップでさらに1.5倍に広がった。だいたい半径11メートルということだ。

 新しい献立はサンドイッチを選んだ。プレーンなタマゴサンドだ。飲み物はウーロン茶にした。


 今回のレベルアップではオプション用のポイントとして1500ポイントも出た。そのうち100ポイントを修理用に残すと、前回の繰り越しと合わせて1505ポイントだ。そのうち400ポイントをトイレの取り付けで使ったので、残りは1105。

 そのポイントで俺は500ポイントで大型魔動車を買い、残りのポイントでそれを改造して大型の風呂場をつくった。この新しい風呂は浴槽がある部分の屋根を大きく開けることが出来る。露天風呂の雰囲気が欲しかったからそういう風にしたのだ。

 この風呂は基本的には宿屋の宿泊客と、他の店の店主店員とその関係者用とした。新しい風呂が出来たことで、もともとある風呂は俺とテオフィリアやメガメーデなど、近い者たちだけで独占出来るようになった。



「どうせなら独立国として立ち上げようぜ」


 早朝の店主たちの会合の席でバルカンが提案した。

 ギルドが出来てからワゴンブルグを構成する魔動車の数も増えて、人口も百人を超えている。国は大袈裟としても、もはや一つの町と言っていいほどだった。


「いいっすね」


「やりましょう」


 店主たちは皆バルカンの意見に賛同の声をあげた。


「独立国か。おもしろいかもな」


 俺は日本によくある村おこしのミニ独立国を思い浮かべた。バルカンは架空国家をつくって盛り上げようとしているのだ。


「王は誰がなるんだい?」


 店主の一人が尋ねた。


「そりゃあトモだろうな」


 バルカンが俺の方を向いて言った。


「俺は人を引っ張っていくようなタイプじゃないから、バルカンがやったほうがいいよ」


「引っ張っていく必要なんかねぇよトモ。てっぺんってのは精神的支柱でいいんだよ。

この集団はトモを中心に集まってるわけだからな。トモが王じゃないと皆がまとまらねぇ。俺だってトモがいるからこそ、ここに来たわけだしな。だからあんたに頼みたい」


 そこまで言われると断りにくい。どうせ架空国家の肩書だけだし、別にいいかと思った。


「そういうことなら俺が王でいいよ。でも宰相はバルカンな」


「わかったよ」


 バルカンは苦笑しながら答えた。


「他の役職も決めようぜ」


 若い店主たちはノリが良かった。


「防衛大臣はメガメーデに決まりだな」


 バルカンが言った。これには誰も異議はなかった。メガメーデはうちで最強の戦力だから当然である。彼女は不在のうちに勝手に大臣にされてしまった。


「財務大臣はどうしようか?」


 バルカンが俺に尋ねた。


「アニュモネはどうかな?」


「金遣い荒らそうな大臣だな」


「破産するぞ!」


 今度はみんなから抗議の声が上がった。


「あんたらうるさいわね。あたしはコイン落とし大臣でいいわバルカン」


「そんな大臣があるか!」


「じゃあアニュモネはギャンブル担当大臣ってことでどうかな? バルカン」


「若い女の肩書としては糞だな。でもまあそれでいいか」


 結局アニュモネはそれに決まった。財務大臣は二階建て宿屋のエウロペがやることになった。他にも大臣が次々決まって行って、店主はほぼ全員が何かの大臣ということになった。


「次は国の名前だがよ。トモを中心に集まってるわけだし、トモがつければいい」


「ワゴンブルグでいいよ、バルカン」


「適当だな、おい」


「でも他に思いつかない」


「しょうがねぇな。じゃあとりあえずワゴンブルグ王国(仮)ってことでいいか。

まずは近隣の村に使節を送って王国の建設を宣言しなきゃあな。それとだな。建国祭を行おうぜ」


 バルカンは積極的でアイデアマンだ。建国祭はいい考えだと思った。客を呼べるイベントになりそうだ。

 王国の紋章はワゴンブルグを表す環形の鎖をデザインしたものに決まった。看板職人がその紋章を描いた看板を建国祭までに作ってくれるという。それをエウロペの宿屋の二階部分の前部に取り付けて、来訪した客の目に一番に入るようにする予定だ。

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