第31話 移動式ギルド
「そうだ。そいつを足もとに置け。それからプラークシテアーの縄を解いて……」
ガツンッ!
リュンケウスはまたしても言葉を言い終わらないうちに何者かに
槍を持って立っているのは坊主頭の大男だった。その男は縄で手早くリュンケウスを捕縛した。
「バルカン! どうしてここに?」
「おう。ちょっと前に魔女の討伐に向かった討伐団が負けて帰って来たらしいからよ。ギルドのリベンジで俺とランパスの二人のA級が駆り出されて来たのさ」
バルカンは鼻をかきながら言った。
「そしたらちょうど野盗が移動販売車の群れを襲ってる最中だったんだ。それで皆で背後から野盗どもを蹴散らしてやろうと思って近づいたら、すげえ速さで走っていく車が見えたからよ。あんなスピードで走れるのはトモの車に違えねぇと思って、手下どもはランパスに任せて俺は一人で車が走って行った方向を追っかけて来たんだ」
「助かったよ。でも山賊団に向かった仲間をほっといて大丈夫なのか? バルカン」
「問題ねえよ。あっちにゃあランパスがいるんだ。強いこと以外には何のとりえもない獣みてぇな女だからよ」
しばらくすると、手下の冒険者たちを従えたランパスが姿を現した。
「もう終わったのか? ランパス」
「すぐ蹴散らしたぞ、バルカン。移動販売車の側にはあのクソ強いメガメーデもいたしな。うまいこと挟撃出来た」
野盗たちはワゴンブルグと戦っている時に、背後からランパスたちのギルドの討伐団が襲ってくることまでは予測していなかったはずだ。そのため完全に奇襲を受ける形になってしまったのだ。
「久しぶりだなトモ! 元気だったか?」
ランパスは無駄にデカい声でそう言いながら俺のケツを叩いた。そして再びバルカンの方に顔を向ける。
「しかしようバルカン。前に来た冒険者どもは何であんなカスどもにやられたんだ? 魔女プラークシテアーってのはどこにいるんだ?」
「こいつだ」
バルカンは転がっている麻袋をつま先で軽く蹴った。プラークシテアーは、バルカンによって何もできないようにがんじがらめに縛られて麻袋をかぶせられている。
「俺たちが来た時にゃあもう、敵のやべぇやつはトモたちが全部倒しちまってたんだよ」
「そういうことか。ほんとうに世話になってばかりだな」
ランパスは敬意のこもった眼差しで俺たちを見た。彼女には過大評価されてるようで少し居心地が悪い。
「いや、俺も危ないところをバルカンに助けられたんだ」
「そうなのか? バルカン」
「たまたまだ。いいタイミングで出くわしただけよ。それはそうとトモ。話は変るがあんたに頼みてぇことがあったんだ」
「何だい?」
「実はな。今度、俺が主体で新しく冒険者ギルドの出張所を立ち上げることになったんだ。それをトモに手伝ってもらいたいんだ」
バルカンはギルド長の甥である。
「出張所? どこに出すんだい?」
「移動式の冒険者ギルドをつくるから、ここに出させてもらいたいんだ」
「魔動車でかい?」
俺は驚いて尋ねた。
「ああ。面白いアイデアだろ? もともとゾラの町のギルドだけでレクリオン全体をカバーするってのは無理があったからな。だから、もうひとつ拠点をつくる必要があったんだ。それでそのための魔動車の手配をトモに頼みてぇんだ」
反対する理由は特にない。仲間内にギルドがあれば魔物や野盗の襲撃に対する戦力としても大きいだろう。
俺はバルカンとランパスがゾラの町に帰還する前に、ワゴンブルグ内の三台の大型魔動車を二人に見せた。どれかを気に入りそうなら似たタイプの車両を用意すればいいからだ。
「こりゃあいいな。運転席側に受付を置こう」
カジノにしている大型魔動車をバルカンが気に入ったようなので、それで話を進めることにした。
バルカンたちが帰る前に野盗の捕虜にアジトまで案内させた。アジトには大量の槍や剣の他、
捕虜はバルカンたちが一旦帰還するときに全員一緒にゾラに護送された。
二日後、アミュモネのつてで中古の大型魔動車が手に入った。この世界では登録なんかしなくていいので買えばすぐに乗れる。しかし、そこから改装に八日かかった。
魔動車が完成すると、バルカンの運転でペロエの町から丸一日かかって移動して来た。新ギルドの落成式には、ゾラの町の冒険者ギルドからも関係者が数人訪れた。
「ギルド長はバルカンがやるのかい?」
落成式の最中に俺はランパスに尋ねた。
「一応はな。でもバルカンは冒険者としての活動で留守にすることも多いから、実際のギルドの業務は受付のクラリスがやることになると思うよ」
式が終わった後でランパスに、そのクラリスに紹介してもらった。見覚えがあった。俺が初めてゾラの町の冒険者ギルドに行ったときに、対応してもらった受付嬢だった。
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