第28話 野盗の襲撃

「ありがとうございます。ではどういう風な並びにしましょうか?」


 俺はメガメーデと二人でワゴンブルグの構成を考えてみた。

 まず基本の形として昼間は北西に隙間を開けて出入口とし、夜はエウロペの二階建て魔動車が前方に移動して出入り口を封鎖する。非常時には状況によって、俺の車を外に出して戦えるようにする。これを基本として、まず二階建て魔動車と俺の車の配置を決めた。


 この基本の形を決めた後、店長たちを呼んで皆でそれぞれの車の配置を相談した。

 現状、魔動車の数は16台だが、元々ここにいた2台も俺たちと行動を共にするらしいので18台になっている。


 全員で試行錯誤してようやく配置が決まった。

 今回は隙間なく円形に配置するために、飲食店から出る煙や匂いが問題だった。そのため飲食店は、臭いが付くと困る洋服店などとは、風向きなども考慮しながら出来るだけ離して配置することにした。

 結果、円形の南半分には飲食店が固まり、北半分にはそれ以外の店が固まることになった。なぜそうなったかと言うと、この世界のこの地方では夏の間のほとんどの日は終日、北西風が吹くからだ。

 俺の車だけ中央付近になってしまったが、そのことには誰からも文句は出ることはなかった。なぜなら皆にとっても、その方が水の供給に都合がいいからだ。

 配置変更で、今までずっと隣りだったテオフィリアやカサンドラの店と若干離れることになってしまったが、自分の都合だけ優先するわけにもいかないので仕方がなかった。


 さらに大きな変更として、これまで椅子とテーブルはそれぞれの店が用意して専用になっていたのだが、今後は全店舗共通に変えることにした。つまりフードコート形式である。


 結果は大盛況だった。フードコートの物珍しさもあって客が殺到し、毎日がお祭りのようになった。オイフェ村とカイネ村からの客だけではなく、遠路はるばるカデス村からやって来る人たちも少なくなかった。



 今の場所で営業を始めて五日目の深夜に最初の野盗の襲撃があった。

 捕虜を取り返しに来たわけではない。捕虜は営業を始める前に俺が自分の車でゾラの町に護送し、すでに冒険者ギルドに引き渡し済みだ。振り切ったが最初追跡されていたので捕虜がここにいないことは野盗も知っているはずだ。


 交代で見張りをしていた者が片面太鼓を激しく叩いて警報を発した。


「野盗が来たの?」


 警報の音に起こされた俺に、テオフィリアが尋ねた。硬い声だ。


「そうみたいだ」


「私はどうしたらいい?」


「テオフィリアは自分の車に戻っててくれ。俺は外を見てくるよ」


「わかった」


 俺が車の外に出ると、メガメーデはもう既に梯子をかけて魔動車の城壁の上に登っていた。俺も同じ梯子で近くに登る。メガメーデの傍らには、さきほど警報を発した片面太鼓を持った若者がいた。


「あれです。旦那様」


 俺はメガメーデが指指した南西方向に目をやった。暗闇の中を盾を持った30人程度の野盗の群れが、こちらに近づいて来るのが見えた。


「どうします?」


「メガメーデに任せるよ」


「あの数だとおそらく敵は探りを入れに来ただけかと思います。一度クロスボウを斉射すれば逃げ出すでしょう。確実に打撃を与えるのであれば、一旦引き付けてから一斉射撃しますが」


「追い払うだけでいい」


「了解しました」


 野盗はこちらまで200メートルくらいの距離まで近づくと、一旦足を止めた。そこから先は慎重にじりじりと前進してくる。

 こちら側の飛び道具の飛距離の限界まで近づいてから、突撃してくるつもりだろう。野盗の中には魔動車の屋根に上るための梯子を抱えている者の姿も見えた。


 100メートルを切るくらいまで近づいたところで、野盗の群れは急激に足を速めて突撃状態になった。メガメーデは片面太鼓に合図を出させて、魔動車の窓から迎撃のためのクロスボウを撃たせる。

 放たれた矢はほとんどが地面に突き立った。距離があるので、よっぽどでない限り当たらないのだ。

 しかしこの敵を追い払うのには十分だったようだ。あっさりと引き鐘を鳴らすと、野盗たちは来た道を引き返して行った。


 この時には味方の被害はなかったのだが、皆も危機感を持ったようで6日おきの休みの日を作ってその日に全員で訓練をすることになった。



 前回の襲撃から10日ほど後の新月の夜、再び野盗が姿を見せた。前と同じく南西方面からだ。


「どうだ?」


 俺は魔動車の城壁の上でメガメーデに尋ねた。二十一世紀の日本人の俺より、メガメーデの方がずっと視力も良くて夜目も効くからだ。


「今回は本気のようですね。プラークシテアーらしき者の姿も見えます。手下も百以上は来てるようです」


 1台の魔動車の屋根に据えられた豪奢な椅子に、杖を持ってサフラン色のローブを身に着けた女が腰かけていた。あれがプラークシテアーだろう。魔動車はその1台のみのようだ。


「車で出られますか? 旦那様」


 メガメーデは俺が迷っていることを感じ取っているようだ。

 魔術に対応出来るのは俺の車だけだ。この車なら結界の中ならどんな魔術も無効化出来る。

 しかし、プラークシテアーの炎系魔術で、ワゴンブルグのどこかが燃やされた時のことを考えると、無限に水を出せる俺の車はここから動かさない方が良いかも知れない。


「魔術が厄介だな」


「確かに厄介ですが、プラークシテアーの魔術はそれほど万能ではないと思います」


「どういうことだい?」


「おそらくですが、ある程度まで近づかないと発動出来ないのだと思います。遠距離からでも使えるなら、もうとっくに使っているはずですから」


「それもそうか。なら魔術を無効に出来る俺の車で、プラークシテアーの接近を防げばいいかな?」


「はい」


 魔女以外の連中は、メガメーデが何とかしてくれるだろう。


「わかった。俺が車で出るよ」


「お気をつけて」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る