第27話 ワゴンブルグ

 森を北に抜けてすぐのところがオイフェ村だった。柵に囲まれた村だ。人口は二百人くらいだろうか。養豚業が盛んなようで、村の周辺では豚を放牧させている人をたびたび見かけた。


「申し訳ございません。うちの村ではちょっと……」


 村役場を訪れた時に捕らえた盗賊の引き取りは、村長に断られた。野盗が手下を引き連れて取り返しに来るかもしれないからと言うことだ。そう言われると引きさがるしかない。


「このあたりには野盗がよく出るんですか?」


 村長に俺がたずねた。


「はい。野盗は前からいましたが、以前は襲われる確率も他の地域と変わりませんでした。

しかし、半年ほど前に頭目が替わってからというもの急に活発になって来まして、日が暮れてから村の外を出歩くことは出来なくなってしまいました。

そんな状況ですので、街道で店を営業されることは私どもは歓迎致しますが、おすすめは出来ないかと……」


「頭目とはリュンケウスという男ですか?」


「リュンケウスですか? いいえ、その男ではありません。頭目はプラークシテアーという魔女です」


「魔女?」


「炎系の破壊魔術を使いこなす魔女です。人を殺すことにまるで躊躇がない冷酷な女。

少し前までこのオイフェ村の東にはコロネ村という村がありました。農業が盛んな美しい村でした。

しかし二か月ほど前に野盗に目を付けられて村を占領されると、全ての村民は村で一番大きな建物の中に押し込められました。そしてプラークシテアーの炎系魔術によって一人残らず焼き殺されてしまったのです」


「……どうしてその村は野盗に目を付けられたのですか?」


「コロネ村の村長が野盗の要求を拒んで、冒険者ギルドに討伐依頼を出したからです」


「その要求とは?」


「野盗どもは傭兵団を自称しています。彼らは護衛として雇われることを村に押し売りしてくるのです。

彼らの要求は村が冒険者ギルドと手を切ることと、村の収入の7割から8割を納めること。断れば当然のように村を襲います。

護衛も何も、襲ってくるのもほとんど彼らなんだから茶番でしかありませんが」


「ギルドから討伐団は来ましたか?」


「コロネ村が焼かれる直前に50人規模の討伐団が来ました。しかしプラークシテアーの魔術の前に、多数の被害を出して敗れ去りました」


「この村は大丈夫なんですか?」


「今のところはまだ。しかしいつ矛先が向くかは分かりません」


 こう言う状況なら捕虜の引き取りを拒まれても仕方なかった。

しかし、マズいところに来てしまったのかも知れない。だがもう既に関わってしまってもいた。


 俺は皆の元に戻ると村長に聞いた話を伝え、十字路に戻るかどうかを尋ねた。


「オークならともかくさ。野盗ごときを怖がってたら移動販売業なんか出来やしないわよ」


 アミュモネのその言葉に皆も賛同し、結局全員がここで営業することに決めた。


 エウロペの案内で、カイネ村とオイフェ村の中間地点まで行くと、そこでは2台の移動販売車が営業中だった。その2台のうち1台は若い男性が経営する雑貨店で、もう1台は30代男性の看板職人の店だった。


「ここで営業してて野盗に襲われないんですか?」


 雑貨店の若い男性店主に尋ねた。


「昼間、野盗はこんな開けたところにはめったに出ないからね。まあ、出たところで椅子やテーブルを広げないといけない飲食業と違って、俺たちは車に乗ればすぐ逃げられるからさ」


「夜はどうしてるんですか?」


「安心して寝るために、日が暮れればカイネ村やオイフェ村に行って柵の中に入れてもらってるよ」


 俺たちは、寝る時に近くの村の柵の中に入れてもらうというわけにはいかないだろう。

 車の数が多すぎることもあるし、すでに野盗ともめてしまっているので、村もいい顔はしないはずだ。だから自力で野盗から身を守りながら商売する必要があった。


 営業する予定の場所に着いた時、まず俺は余っていたポイントで車に兵器を搭載することにした。ドワーフ製のバリスタだ。バリスタとはクロスボウをデカくしたような兵器である。それを車のルーフキャリアに搭載する。

 さらに車の天井部分にサンルーフのようなハッチを設けて、そこから上体を出してバリスタを操作するようにした。バリスタとハッチの両方で200ポイントが必要だった。


「旦那様ちょっといいですか? 野盗の襲撃に備えるためには、こういう形に魔動車を並べるとよいと思います」


 メガメーデが魔動車の数と同じ数の石を、地面に円形に並べて俺に見せた。


「これはどういう意味があるんだ? メガメーデ」


「車を隙間なく並べることで、敵の侵入を防ぐ城壁の代わりにします。そして環形に並べることで、敵の襲撃の際に死角をなくすことが出来ます」


 今では十字路での魔物との戦いを経験するうちに、全ての店がクロスボウなどの武器を保持するようになっていた。


「なるほど」


「この戦術は一般的にワゴンブルグと呼ばれています。ここからさらに車と車を鎖で繋げば、城壁はより強固になります」


「うーん。

プラークシテアーは炎系魔術が得意らしいからな。火計を仕掛けられた時にすぐに逃げられなくなってはマズいし、鎖で繋ぐのはやめといたほうがいいだろうな。でもワゴンブルグだっけ?その環形陣は試してみるか」

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