第22話 再々レベルアップとカジノ増設

 オークの巣を壊滅させて安全になったことで、元々十字路で店を出していた移動販売車も戻ってきて、今ではこの場所で営業する移動販売車の数は14台にまで増えた。

 戻って来た中でも特にアミュモネという名前の20代の派手な赤毛の女性が経営する女性用の服飾店は凄い人気で、彼女の大型魔動車の周りには若い女性の人だかりが出来るほどだった。おかげで他の店の客まで増えた。

 テオフィリアはこのアミュモネと波長が合うようで、空いた時間に二人はよく一緒に行動しているようだ。


 俺の店のハンバーガーとレモンスカッシュもあいかわらずの人気だった。

 客層は主に若者が中心だ。俺の店は、いつの間にか若者たちの人気スポットになっているようでカップル客なんかもよく来るようになった。

 若い女の子の客の中では俺に熱い視線を向けてくる子もいた。何人かで遠巻きにこっちを見つめてきて、ついそっちを見やるとキャーと言う感じになるアレだ。

 こんなオッサンにキャーキャー言うのだから、食わせられる者がモテるという車の精霊の話はあながち嘘でもなかったようだ。



 そうこうしてるうちに、再びレベルアップの日が来た。ちょっと早い気がするが、オークの巣を潰滅させたことがレベルアップを早めたらしい。


「ト〇タハ〇エース80年式から、ト〇タハ〇エース85年式にレベルアップしました」


 外見はボディがやや長くなり、丸目2灯から角目4灯になった。車内のぱっと見はあまり変わっていないが、ロングボディになったことで前より室内空間に余裕が出来たように思う。

 結界の半径はさらに1.5倍になったらしい。前は半径5メートルくらいだったので、だいたい7.5メートルくらいまで広がったということだ。


 献立は俺はハンバーガーの種類を増やすことにした。チーズバーガーとフィッシュバーガーだ。

 これでうちのラインナップは、プレーンホットドッグに卵とベーコン入りのホットドッグ、ヒレカツとキャベツとが挟まれたホットドッグ。さらにプレーンハンバーガーにチーズバーガーとフィッシュバーガーということになった。

 新たな飲み物メニューは野菜ジュースにした。客に出すためというより、俺と仲間の健康のためだ。食べ物がホットドッグやハンバーガーばかりでは野菜が足りていないように思ったからだ。その味は普通の野菜ジュースその物で全く美味くなかったが。

 飲み物のラインナップはこれでジンジャエール、紅茶、レモンスカッシュ、そして野菜ジュースということになった。


 レベルアップしたことで、食べ物や飲み物が出来るスピードはさらにアップしたが、もはや関係なかった。あまり大量に出しすぎて供給過剰になるのもどうかと思うし、忙しすぎるのも嫌なので、わざと生成スピードを落としているからだ。


 オプション用のポイントは新たに900出たが、繰越しが205あるので合計で1105ポイントだ。100ポイントを修理用に残しておくので残りは1000と5ポイントである。 

 まずは収納のための大型のチェストを50ポイントで付けた。

 

 さらに50ポイントでガチャを試してみたら、競馬ゲームが当たった。昔のゲームセンターにあったようなコインを入れて賭けると競馬の人形が走るやつだ。

 結構デカいので置いておく場所がないため、それ用に大型魔動車を作った。500ポイントだった。残りが405ポイントになったところでオプションは打ち止めにした。


 せっかく競馬ゲームが手に入ったので支配人が欲しいところだった。しかしメガメーデには子守りの仕事があるし他に手が空いてそうな人はいない。


「誰か心当たりはないかい? テオフィリア」


「それならアミュモネに相談してみるといいわ。私は地元出身じゃないからあんまり知らないのよ」


 翌日、俺は閉店後に彼女のところに訪ねた。アミュモネは特別美人というわけではないが、陽気で人当たりが良いので誰からも好かれている。そして彼女の服は若い女性たちにすごく人気があった。


「カジノの支配人出来そうな人? 誰か心当たり? あるわよ」


 アミュモネは快活に言った。


「元カレだけど、いい?」


「そのへんは別に何でもいいよ」


「良さそうなのは三人ね。一人目の彼は背は低いけどハンサムで面白いし、人気がある。ギャンブルが大好きだからその仕事に向いてると思う。でも唯一の欠点は、お金を貸したら戻ってこないことかな」


 その欠点はかなり致命的だと思う。


「二人目は?」


「やせ型で背が高くて詩人で、割とハンサムよ。お金に汚いところもあるけど、ロマンチック」


「お金に汚い?」


「大したことじゃないわ。割り勘の時にいつも一人だけ居なくなるくらいよ」


 そんな人はちょっと……。


「三人めは?」


「ちょっとやんちゃだけど筋肉があって顔もいいし、色んな事を知っている。でも手グセが悪いのが玉にきずかな」


「……」


「何? 他にいないかって? あんた、あたしより男の好みうるさいわね。まあ、一人いないことはないけど、あんまりおすすめ出来ないかな」


「それはどういう人?」


「生真面目なだけで面白くない人よ。たまたま持ち合わせがなかった時に一度だけ小銭を貸したけど、翌日に細かい単位まできっちり返してきた几帳面な奴。セクシーじゃないから一か月で別れたわ」


「……いや、そういう人がいいんです」



 アミュモネが紹介してくれた青年の名前はコロイボスと言った。短く刈った頭以外は見た目の特徴は何もない青年だ。


「競馬ゲームですか? どういう物なのか一度見てみたいです」


 彼はアミュモネによって、何だかよく分からないまま連れてこられたみたいで最初は戸惑っていたが、競馬ゲームのことを伝えると興味を持ったようだ。

 彼を競馬ゲームを置いてある大型魔動車に連れて行った。


「これは面白いですね。でもこれだけじゃなく、他にも何かあった方がいいですね」


「俺も同じ考えだから、いくつか考えているんだ」


 俺はコロイボスに置けそうなもののアイデアを伝えた。それらはむろん全て21世紀の日本にあったものだ。問題はこの車によって作れるかどうかだった。この車は注文した物を作れる機能があるのだが、あくまでドワーフの技術によって製造可能な物だけで、あまり高度な機械は作れないのだ。


「その中だとコイン落としが良さそうですね。シンプルで分かりやすそうです」


 コロイボスがそう言ったので車の精にきいてみたら、200ポイントで製造可能ということだったのでこれに決めた。



 3日後、競馬ゲームとコイン落としを備えたカジノが十字路にオープンした。カジノと言っても賭けられる単位は少額なので、ほとんどゲームセンターと言っていい。場所は未亡人カサンドラの店の隣で、アミュモネの女性服店の真向かいだ。

 彼女には申し訳ないが、1か月で別れたという元カレと毎日向かい合ってもらうことになってしまった。場所がそこしかなかったのだ。カジノの営業時間は酒を出している店と同じく夕方から深夜までだ。


 カジノは開店当初こそひっそりとしていたが、2日もすれば物珍しさもあって客が殺到するようになった。客があふれるのでコロイボスの判断で入場制限することにした。スペース的に10人くらいまでしか入れないのである。

 中でも最もカジノに入り浸っている客はアミュモネだった。コイン落としに完全にハマってしまったらしい。仕事が終わると毎日、向かいの店から訪れてはお金を落としていく。知り合いから金をむしるのは少し気が引けるが、アミュモネの店は人気店で彼女は金持ちなので別にいいのかもしれない。

 一応カジノなので、柄の悪い連中が暴れたりするトラブルもたまに起きた。そういう時はメガメーデの出番だ。これで彼女の仕事は、護衛兼、子守り兼、カジノの用心棒ということになった。


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