第21話 勧誘
突入組がオークを掃討し終えて戻って来た。魔動車に立て籠もっていた冒険者も救出されたようだ。
突入組の冒険者たちは一様に、オークの侵入を防いだ俺の車の結界に驚いている。
「ドワーフの機械で、音を発して魔物を追い払う物なら見たことがあるが、こういうのは見たことがないな。これもドワーフの技術なのか?」
ランパスがたずねた。
「俺にもよくわからないが、多分そうだ」
「やはりそうか」
これもおそらくは車の精が自分で開発したものだと思うが、説明が難しいのでドワーフ製ということにしておいた。よく分からない機械はドワーフと言っておけば、この世界では誰もが納得するからだ。
そうこうしているうちにバルカンがやって来た。彼は一人で2頭のオークを倒したせいで、全身が返り血で汚れていた。
「おい! あんた」
バルカンが俺に声をかけてきた。声がデカいので全員がこっちに注目する。
「なんだ?」
また何か文句があるのかと思って身構えてしまう。
「弟を助けてもらったそうだな。恩に着るぜ」
バルカンは照れなのか何なのか顔を赤くしながら言った。
「いや。仲間を助けるのは当然のことだ」
「あんたも危ないところだったらしいじゃねぇか。命がけで助けてもらったってポロスも言ってたぜ。
あいつはよ。俺のたった一人の肉親なんだ。あいつが幼いころに両親を亡くしてからは、ずっと二人っきりでやって来たんだ。
だから、あいつの恩人は俺の恩人だ。恩人のあんたがこれから冒険者としてやっていくってのなら、俺にも出来るだけのバックアップをさせてもらうつもりだ」
まくしたてるように言った。
「それで手始めにだが、あんたら三人とも俺のパーティーに来ないか?」
「スゲェ! バルカンさんのパーティー、『暁の祈り』と言えば、ゾラの町に属する60を超すパーティーの中でも、最強のパーティーだぜ! 皆の憧れだ」
バルカンの言葉に他の冒険者が驚きの声をあげた。
「待て、バルカン。彼らには私のところに入ってもらおうと思っていたんだ。抜け駆けは許さないぞ」
団長のランパスがバルカンを押しのけて話に割り込んだ。
「トモ、言いたくはないがバルカンのパーティだけはやめておけ。あそこはトレーニングの後で互いの筋肉を見せ合って評価し合うような薄気味悪いところだぞ。
メンバーの過半数はホモだと言われている。だから強い。体の一部で繋がっているからだ。お前があえてホモ団の一味になりたいと言うのなら止めはしないが……。
それに引き換え、私のサロン『ペトリコール』は……」
「コラ、ランパス。何がホモ団だ。黙って聞いてりゃ、めちゃくちゃ言いやがってよ。
お前のパーティーは『ペトリコール』なんて上品な名前つけといて、その実は頭の悪い脳筋の集まりじゃねぇか。何がサロンだ。誰一人、文字も読めねえくせに」
「殺すぞハゲ」
「やってみろよ」
「待ってくれ」
たえかねて俺は口を挟んだ。
「あぁ?」
二人は何故か切れ気味に俺の方を見た。
「誘ってもらえるのはありがたいんだけど、俺たちの本業はあくまで移動販売のほうなんだ。だから冒険者を本格的に続けるつもりはないんだ。悪いけどあんたらのパーティには入れない」
俺がそう言うと、二人は顔を見合わせて肩をすくめた。
「そうか……。残念だが、あんたがそうしたいってのなら仕方ない。でもよ。あんたが俺の恩人であることには変わりはねぇ。だから、もし何かあればいつでも俺のところに訪ねて来てくれ。必ず力になるぜ」
「私もバルカンと同じでトモには借りが出来たんだ。今回のトモたちの活躍がなければこの私の率いる討伐団は壊滅的な打撃を受けていたはずだ。だから、いつでもいい。何か困ったことがあったら私のことを思い出してくれ。
しかし、お前のこの車のことは秘密にしておいた方がいいだろうな。今日来た連中にも口止めしておこう。ギルドの連中なら大丈夫だろうが、ディル家の若当主ゲネウスの耳にでも入れば面倒なことになるかもしれないからな」
ディル家とは、ブラシアの町を中心とする、アンテドン川より南の土地を支配しているという貴族のことだ。
ちなみにゾラの町は冒険者ギルド、ペロエの町は商工ギルドによって管理されている。
「面倒なことって?」
「ゲネウスは、欲しい物を手に入れるためなら手段を選ばないという噂だ。前の当主は下々の暮らしにも理解のあるいい当主だったのだがな」
ランパスは言った。
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