第20話 救出

「隊長は車を守っていてくれ。ポロスのことは任せろ。俺たちが連れ戻してくる」


「本当か! た、頼む」


 次に俺はメガメーデの方を向いた。


「メガメーデは俺と一緒に来てくれ」


「了解しました」


「私はどうするの?」


「テオフィリアはここに残って車の屋根に上り、俺たちがポロスを確保してから逃げる時に上からクロスボウを撃ってオークをけん制してくれ。当たらなくてもいい」


「分かったわ」


 オークに撃退されて逆に追い詰められたポロスが、魔動車を背にへたり込んでしまっていた。俺とメガメーデは結界を出て救出に向かう。


「こっちだ! こっちに来い!」


 俺はポロスを追い詰めているオークの気を引くために大きな声を出した。3頭のオークがこっち向かって来た。


「メガメーデ。あのオークは頼むぞ。その間に俺はポロスを助ける」


「任せてください」


 向かって来た複数のオークを同時に相手にしてメガメーデが立ち回っている間に、俺はポロスの腕を引いて立ち上がらせた。


「しっかりしろ。今のうちに逃げるぞ」


「こ、腰が抜けて……」


「背中に乗れ」


 俺は腰をおろしてポロスに背中に乗るようにうながす。


「メガメーデ! よくやった! もういいぞ。撤退だ」


 メガメーデにそう叫ぶと、ポロスを背負ったまま走り出した。メガメーデは大剣でオークをけん制しながら、俺の後ろについた。

 オークが追撃しようと前がかりになった時、テオフィリアが車の上からクロスボウを発射する。矢は先頭のオークの脚に見事に命中。そのオークがしゃがみ込んだことで追撃の勢いがそがれ、おかげで俺たちは車の結界まで無事に逃げることが出来た。


「ポロス無事だったか! ああ、良かった! よくやってくれたよ、あんたたち。本当にありがとう!」


 隊長が顔をくしゃくしゃにしながら俺の手を握りしめて礼を述べた。


 俺はポロスを隊長に任せると、少し離れた位置で肩で息をしながらしゃがみ込んだ。


「大丈夫? トモくん」


「大丈夫だ。クロスボウは練習してたのかい? テオフィリア」


「うん。暇な時に一人で切り株を撃って練習してたの。いつか役に立てばいいなと思って」


「おかげで助かったよ」



 しばらくすると、オークによる魔動車への攻撃が徐々に激しさを増してきた。さすがにこのままだとちょっとまずそうだ。


「隊長。あの魔動車は限界だと思う。何とかオークの矛先をこっちに向けさせた方がいい」


 この車に結界が張ってあることは、さきほどのオークの襲撃時に皆もわかっている。混乱していた冒険者たちももう落ち着いているし、反撃に出るタイミングは今しかなかった。


「そ、そうか?」


 隊長は踏ん切りが付かずにいる。結界があるとはいえ、オークが怖いのだ。


「この車の結界なら問題ないよ。安全だ」


「わ、分かった……」


 隊長の命により冒険者たちは、オークの注意をこちらに引くために剣や槍で盾を叩いて大きな音を出した。

 それによって、再び8頭のオークたちがこっちに押し寄せて来た。そして結界によって足を止められる。


 俺は結界の中からオークを槍で突きまくった。メガメーデも結界を出たり入ったりしながら大剣を振るって盛んに斬りつけ、テオフィリアは再び車の屋根に上り、結界で足を止められた個体を狙い撃った。

 他の連中も俺たちがやっているのを見て、少しずつ戦い始めた。



 結局、突入組が戻って来るまでの時間に、待機組によって4頭のオークが倒された。うち1頭は俺が倒して、2頭はメガメーデが倒した。

 突入組の冒険者たちが残りのオークと戦い始めた時、団長のランパスが待機組の方へと足を向けた。


「いったい、どういう状況になっていたんだ?」


 ランパスが待機組の隊長に問うた。


「背後の藪にオークが潜んでいたのを、彼が」


 隊長が俺の方へ顔を向けた。


「トモか?」


「はい。トモが気付いて」


 隊長はランパスに起こった出来事を説明した。


「分かった。よくやった」


 ランパスはねぎらうように隊長の背中を叩いた。


「ち、違いますよ。さっきも言ったように、やったのはトモと仲間の二人です。

ポロスを助け出したのも、オークを3頭倒したのも、全て彼らがやったことです。俺は何も出来ずに、彼らに任せっぱなしにしただけです」


「だから、出来る者に任せたことがいい判断だったんだ」


「はあ……」


「トモ」


 今度はランパスがこちらを向いた。


「はい」


「お前たちには特に礼を言わなければならない。本当によくやってくれた。ありがとう」


「巣穴の方はどうだった?」


「うむ。私たちはオークの巣になっている洞窟に潜ったのだが、オークの姿はまるで見当たらなかったんだ。結局、巣穴には1頭もいなかったわけだが、洞窟の中は意外に広くてな。探索に思いのほか時間がかかってしまった。

おそらく奴らは待ち合わせ場所にいた私たちを見つけて、これから巣穴が襲撃されることを察して、外で待ち伏せを企てたのだろう。

もし、お前たちがいなければ待機組が全滅していたかもしれないし、突入組が後ろから襲われていたかもしれない。危ないところだった」

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