第15話 メガメーデ

 俺は腕を組んで少しの間考えてみた。

 メガメーデはいかにも強そうには見える。魔物や山賊が襲ってきた場合の護衛としては役に立つだろうし、見た目の迫力から抑止力にもなりそうだ。

 問題はコストだが、大食いすぎるという欠点は俺の場合は欠点にならない。時間の許す限り、食料は無限生成出来るからだ。

 何よりこのメガメーデは俺が保護しないと、どうしようもなさそうだった。見捨てれば野垂れ死にするしかない。


「わかったから頭をあげてくれ」


「雇ってくれるのですか?」


「うん」


「か、感謝します! 旦那様は私の救いの神だ」


 メガメーデは俺に抱き着くと、凄まじい腕力で再度、俺を胸の谷間に押し付けた。

この時の俺はこのメガメーデが、後々頼もしい相棒になるとは全く思ってもいなかったのだった。


 俺はメガメーデを車に乗せると、その足でペロエの町に向かい、完成したテーブルセットを受け取り、ルーフキャリアに積んでから十字路に戻った。テーブルセットを運ぶのに店から車まで何度も往復することを覚悟していたが、メガメーデのおかげで一往復で済んだ。


 十字路に戻り、皆にメガメーデの紹介を済ませた後で簡単に夕食をとった。メガメーデはその時も、一度に20個ものホットドッグを食った。

 幸いメガメーデは味にはあまりこだわりがないようで、ホットドッグだけでも飽きるということはないようだ。ただ栄養が偏らないようにする必要はあるが。


「旦那様。私は何の仕事をすればよいでしょうか?」


 食事が終わった後、メガメーデがたずねた。


「そうだな。昼間の仕事は特に手伝いが必要でもないしな。魔物や盗賊が襲ってきた時に守ってくれればいい」


「しかし、それだけでは……」


「それ以外の仕事は、まあ追々考えよう」


 問題はメガメーデの寝場所だが、テオフィリアの車で寝てもらうことにした。俺の車にはデカい彼女が寝れるほどの広さは無いからだ。テオフィリアは俺の車で寝ることが多いので特に問題はない。



 この後の数日で分かったのだが、メガメーデはどうやら子どもに好かれるようだった。なのでメガメーデには昼間は他の店の子どもたちの相手をしてもらうことにした。これで彼女の仕事は護衛兼、子守りということに決まった。

 子守りの代金は、子どもを預けた人から月ごとにメガメーデに直接支払ってもらうことになった。

 本人は飯さえあれば無給でいいと固辞しているが、護衛の分の給金も月ごとに出すつもりだ。


 数日後の夜、再びオークの襲撃があった。数は前と同じ3頭だった。俺は前回と同じようにオークを誘って結界で迎え撃って持久戦にしようとしたが、メガメーデが志願してひとり結界の外に出て戦い、大剣で1頭を仕留め、結局ほとんどひとりの力だけで撃退してしまった。

 メガメーデは強いだけでなく足も速くて、その戦力はずば抜けていた。たしかに燃費は悪いが、これだけの働きが出来るならそんな欠点にも目をつぶれるはずだ。


「それだけ強いのに、どうして今までの職場をクビになったんだ?」


「今までの職場では出される食事の量が足りなくて、常に空腹状態のまま戦いに駆り出されていました。

私は空腹だと半分の力も出せないから、大食らいの割に使えない奴と評価されて、いつもリストラされていたんです」


「なるほど……」


「しかし今は旦那様のもとで満足いくまで食べることが出来る。生まれて初めて私は思う存分、全力で戦うことが出来ます。期待していてください」


 メガメーデは言った。



 数日後、夕食を終えた俺は運転席に入った。するとカーステレオのディスプレイに、レベルアップという文字が浮き出ていることに気づいた。


「レベルアップしますよ」


 スピーカーから車の精霊の声が聞こえてきた。カウントダウンの終了と共に、車内が眩しく光り何も見えなくなった。


「な、何ごと?」


 後ろに乗っているテオフィリアの狼狽した声がおかしかった。


「レベルアップ完了です。ト〇タタ〇ンエース76年式から、ト〇タハ〇エース80年式にレベルアップしました」


 眩しさから視力が回復すると、車が広くなり内装が変っていた。運転席周りの色合いはあまり変わらないが、メーターが丸から角型になっている。運転席のシートもベンチシートから、3つのシートが横に並ぶ物に変っていた。


「何があったの?」


 テオフィリアが車体後部の寝床からたずねてきた。


「車がレベルアップしたんだ」


「レベルアップ?」


 彼女は首を傾げた。意味が分からないようだ。


「進化したんだ。ほら、ドワーフ製だから」


「ふうん。そうなの? よくわかんないけど」


 彼女は自分から尋ねておいて、めんどくさそうに返事を返してきた。


「車が広くなっただろ?」


「……そう言えば、寝るとこが広くなった気がする」


 女性がメカに関心がないのは、どうやらこの世界でも同じらしい。

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