第14話 女戦士
俺とテオフィリアの休みの日の後の数日間で、カサンドラの店に来る客がずいぶんと増えたようである。
それはお好み焼きの影響もあるかもしれないが、それ以上に彼女自身の判断で店で黒ビールを出すようになったのが大きいと俺は思う。ビールはこの世界にも黒い物なら存在するのだ。
以前はワインを出していたのでお好み焼きとのマッチングがいまいちだったが、ビールを出すようになってからというもの、さらにまた男性客が増えて来ているようだ。
そしてビールを出すようになったことで、カサンドラは営業時間を朝夕から昼夜にずらした。
次の休みの日、俺とテオフィリアは魔物狩りに行った。魔石が足りなくなってきたからだが、新しく買った武器を試してみたいという気持ちもあった。
こっちに来たばかりの頃にゴブリンと戦った沼に向かい、前と同じようにホットドッグを餌にして魔物を誘うと、今回もダイヤウルフやゴブリンなど数匹の魔物が釣れた。
新しい武器の効果は絶大だった。難なく倒して魔石を8個回収することが出来た。あと2個魔石をとって10個たまれば切りのいいところで今日は帰ろうと思った。
しかし、昼が近づくにつれて魔物の姿が見えなくなってきた。妙な感じがした。
その時、野獣のうなり声のような音が聞こえた。緊張が走る。俺は槍を構えて慎重に辺りをうかがった。
ガサガサと音を立てて藪が動いた。
「あ、あそこに何かいるわ」
テオフィリアの顔は緊張で強張っている。
その瞬間、藪から人型の大きな影が踊り出た。
一瞬オークかと思った。しかし影は車の結界でも止まらずに、そのままよろめきながら俺に向かってきたのだ。そして俺の目の前まで来ると、いきなりうつ伏せに倒れた。
それは一人の屈強そうな女戦士だった。1メートル90くらいはあるだろう。かなり大柄な金髪の女だ。女は大剣を背負い、革の鎧を身に着けていた。
「腹減った……」
倒れたまま自分の腹を抑えて女戦士は言った。野獣のうなり声だと思ったのはどうやら女の腹の音だったようだ。
「いったいどうしたんだ?」
俺は女戦士を見下ろして尋ねた。
「頼む。め、飯を食わせて……」
女戦士は俺にすがりついて言った。
俺はホットドッグをいくつか作ると、女戦士に手渡した。女はそれをあっという間に平らげて「もっとほしい……」と言った。
俺はさらにホットドッグ10個と水を渡したが、女戦士はそれもすぐに平らげてしまった。再び追加する。何度も追加したので、結局女は30個ほどのホットドッグを食べてしまった。
「ふう。満足」
女戦士は食べ過ぎてきつくなったのか、鎧を脱いだ。そしてゆっくりと立ち上がった。
よく見ると整った顔をしている。体も大きいが胸も尻も大きい女だ。20代半ばくらいだろうか。褐色に日焼けしたその身体は、贅肉がほとんどないくらいに鍛えられていて腹筋も見事に割れていた。
「飯のお返しをしたいのですが、今の私には礼として差し出せる物がありません。だから、あなたが望むなら代わりに私のこの胸を好きにして構わない」
俺には女戦士が言ってる意味が全く分からなかった。しかし、女は俺に手を伸ばして頭を抱きかかえると自分の大きな胸の谷間に強く押し付けた。
「ぐう」
すごい力で息が出来なくなるかと思った。
「ちょっと! 何やってるの? はなしなさいよ」
テオフィリアが割って入ると女戦士はあっさりと俺を放した。
「礼なんかいいんだ。困った時はお互い様だ。じゃあ」
コイツは絶対ヤバい奴だと感じた俺は、慌ててその場から立ち去ろうとした。しかし腕をしっかとつかまれた。凄い力だった。
「厚かましいお願いですが、私を雇ってはもらえないでしょうか。給金はいりません。飯を食わせてもらえれば」
女戦士の顔はあまりにも必死だった。すぐに断りたいが、断るのも怖い気がした。
「なぜ、あんなところで倒れていたんだ?」
話をそらそうと俺はたずねた。
「私の名はメガメーデといいます。
農家の末娘として生まれましたが、大食いのせいで家から追い出され、生まれつき力が強いので傭兵団に入ったのですが、そこも飯を食いすぎるからという理由で暇を出されて、この地に流れ着きました。
そして地元貴族のディル家の私兵として拾われましたが、やはり大食いすぎるということでおととい追い出されて、行く当てもなくただ食べ物を求めてさまよっているうちに、空腹でめまいがして今しがたここで倒れてしまったのです」
「そ、そうか……」
「頼みます、何でもします。しばらくの間でいいから私を雇ってくれませんか!」
メガメーデは俺に深く頭を下げた。しかし……そのプロフィールで雇えと?
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