第8話 ビキニ作成

 海で遊ぶ俺の様子を見て、うらやましくなったのかテオフィリアもサンダルを脱いで、おずおずと波打ち際まで近づいて来る。その足元に向けて水をバシャバシャさせると、彼女は歓声を上げながらそれを避けた。


「テオフィリアも海に入るかい?」


 海に入りたそうだったので誘ってみる。


「でも服が……」


「水着なら作れると思うよ」


 俺はいったん海から上がると布で体を拭きながら車まで行った。運転席にひとりで乗り込んでから車の精霊に話かけた。


「女性用の水着とビーチサンダルを作れるかい」


「はい。10ポイントで製造可能です」


 この車には、ポイントを使うと望んだものを製造できる機能があった。俺が今はいている水着とビーチサンダルもこれで作った物だ。

 ただし、作れる物は実際にドワーフの技術で製造可能な物のみである。なので鉄や青銅製の物は作れても、アルミやプラスチック製品などは製造できない。また、あまり複雑な機械なんかも製造できない。


「水着とビーチサンダルを頼む」


「トップバストとアンダーバスト、ウエスト、ヒップ、そして足のサイズが必要です」


「ああ、そりゃそうだよな」


 俺は車を降りると、テオフィリアに自分のサイズが分かるかをたずねた。この世界の女性は服は生地から作る事が多いので測っているかと思ったからだ。

 しかし彼女はそういう場合は手尺で測っていたようで、正確なサイズは分からないようだった。


 俺はもう一度車に乗り、精霊に相談する。


「巻き尺なら5ポイントで製造できますよ」


「じゃあそれを先にお願いするよ」


「承りました」


 2分ほどすると荷室の引き出しの中に羊革製の巻き尺が入っていた。それを持って車を降りる。


「これで体のサイズを計測して欲しいんだ」


 テオフィリアに巻き尺を見せて言った。そして自分で使い方を実践して見せた。


「よく分からないから、やってもらえる? トモくん」


 そう言われたので、出来るだけ体に触れないように気を付けながらサイズを測る。 しかし測る時に彼女が体をゆすっておどけるのでずいぶんと時間がかかった。途中で 彼女に好みの色を尋ねたら紺がいいということだった。

 測り終えると、車の精霊に色とサイズを伝えて水着が出来るのを待つ。これの欠点は色を選べてもデザインや素材は選べないことだった。


 5分ほどしたところで車の精霊から完成が伝えられた。荷室の引き出しを見ると、真新しい紺色の水着と革のビーチサンダルが入っていた。

 水着はウール製のようだった。ナイロンやポリエステルはドワーフの技術にはないからだ。しかし、その形はほぼビキニだった。


 テオフィリアに水着を渡すと、「えぇ? これを着るの?」ととまどう様子を見せた。

 ビキニと言っても二十一世紀の感覚で言うと大人しめの物だったが、この世界の人にとってはかなり過激に見えるのかもしれない。


「ごめん。形は選べないんだ」


 俺がそう言うと、彼女は意を決したような表情になってひとりで車の荷室に入った。


 しばらくすると彼女は布で体を覆い隠しながら車から出て来た。


「ちょっとこれ下着みたい。恥ずかしいっ……」


 顔を真っ赤に染めている。まるで全裸で外に出たかのような恥ずかしがり様だった。水着が出来たらすぐに海に入ろうと思っていたが、彼女が落ち着くまでは浜にいることにした。


 強くなってきた日差しを遮るために、10ポイントで新たにビーチパラソルを作った。それは軸の部分が木製で傘の部分は麻で出来ていた。開いて斜めに差し掛けると、オリーブオイルを腕に塗っている彼女の上に、いい感じに日影が出来た。

 この世界ではオリーブオイルは万能に使われていて、料理にも使えば美容にも使われる。この場合、彼女は紫外線から肌を守るために塗っているのである。


 彼女の横に座ると、「はい」とオリーブオイルの入った壺を手渡された。貸してくれるのかと思ったら、「塗ってくれる?」と背中を向けられた。感動するくらいに綺麗な背中だった。

 テオフィリアは早くも恥ずかしいことには慣れてきたようだった。好奇心旺盛で新しいものへの順応がとても早い。彼女にはそういうところがあった。

 俺はオリーブオイルをたっぷり手に取ると、テオフィリアの背中に手のひらをはわせた。すべすべした感触が気持ちよい。脇近くに触れると彼女は「ひゃ!」っと声を出してくすぐったがったが、構わずに塗ると彼女は身体をくねらせて、ふくれっ面を見せた。


「今度はあたしが塗ってあげるわね」


 塗り終わると彼女は俺の手から壺をひったくって言った。どう見てもくすぐる気満々の顔だ。逃げたかったが今はとうてい立ち上がれる状況ではなかった。ずっと彼女に触れていたことで張りつめた状況になっているからだ。

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