第5話 あれ? もしかして俺ヤバい?

 「……ああ、マジで眠い……やる気が起きねえ……」

 「私と一緒に夕食食べた後、夜何してたの……?」

 「……彼女もいない男には色々とやることがあるんだよ。特に夜にはな?」

 「はいはい、朝からバカなこと言わない。ほら、マックスの分の朝ご飯も用意しておいたから」

 「……相変わらず、このクソ寮の飯は質素だな。飯だけ食わせてくれって、実家に土下座しようかな」

 「しーっ! おばちゃんに聞こえる!」


 進級して二日目の朝。

 昨日の朝とは違い、寮の食堂は学園の寮生でにぎわっている。

 だが俺は、昨晩の夕食と同じように食堂のテーブルに突っ伏していて、同じように食事をベイリーに持ってきて貰い、受け取っていた。


 昨晩の夕食と今朝の朝食で違うのは、昨日の放課後のように、朝からやらかしたわけではないということだけ。

 では、何故突っ伏しているのか?


 ただ、単純にやる気が起きないだけだ。


 「……ベイリー。金払うからさ、時間がある時は飯作ってくんない?」

 「無理だよ……そんなに寮のご飯に文句あるなら、一人暮らしすれば良いじゃん……」

 「寮生活の今ですら、遅刻と無断欠席の常習犯なのに、一人暮らしなんてしたら出席日数少な過ぎて退学かクラスG行きになるんだが?」

 「……本当、なんでマックスがクラスAに編入出来たんだろう」


 ベイリーに呆れられてしまった。

 ああ、今日も授業を抜け出して美味しい物を食べに街へ繰り出すことは確定だな……と確信しながら、パッサパサのパンと栄養面を考えるのは良いけど、味をちょっと犠牲にし過ぎじゃない? と思ってしまうようなスープとサラダを無理矢理口に運ぶ。


 「あ、おはよー」

 「ほら、やっぱり。クラスが別々になっても二人は一緒に食べてるって言ったじゃん」

 「おはよう。ソフィア、クロエ」


 挨拶をしてきた二人組の女子が、俺達二人の隣へ座ってくる。

 ソフィアとクロエ。

 この二人もクラスC時代のクラスメイトで、仲の良い友人だ。


 黒髪のポニーテールがソフィア。

 黒髪のショートカットがクロエである。


 「いやー朝からラブラブだね〜ウェインライトさんとは、完全に別れたからベイリーとの関係をオープンにし始めたの?」

 「でも、逆ギレして別れを告げるのはダメじゃない?」

 「もう! 違うって! ね? マックス?」


 ……噂広がるの早いな。

 女子のネットワークマジ半端ねぇ。

 でも、正確さに欠け過ぎじゃない?

 これじゃまるで、エレノアからベイリーに俺が乗り換えたみたいじゃないですかーやだー。

 正しい情報教えないと。


 「だから、昨日ベイリーにも言ったけど、お前の言動が受け入れられないから、婚約破棄したんだぞ? ってクラスAの連中の前で、エレノアに言ってやっただけなんだって。そうしたら、泣かれただけで、俺が逆ギレしたわけじゃない」

 「えぇ……」

 「うわぁ……無いわぁ……」

 「……昨日聞いて、その後もう一回考えてみたけど、やっぱりマックスが悪いよ」

 「…………」


 何? この、女子三人組からの反応?

 これじゃ、真実を教えても真実を教えなくても、女子のネットワーク内で、俺の悪い噂が流れるのは確定してしまったみたいじゃないか。

 どうすりゃいいんだ。


 「……ねえ、大丈夫? ただでさえ、クラスCのくせにウェインライトさんの婚約者ってことで、結構色んなクラスの男子から妬まれてたじゃん?」

 「そうそう。それに、マックスがクラスAに編入したことで、クラスBやクラスCに落ちた子やその子の友達からも、恨まれるようになったわけだし」

 「しかもさ、この件でウェインライトさんと仲の良い人達も敵に回すとか、本当にクラスAで……というかこの学園でやっていけるの?」

 「…………」


 悲しいかな。

 同い年の女子三人から、ボロッカスに言われているというのに全く反論出来ない。


 だって、全て事実なんだもの!


 クロエが言うように、クラスC程度の実力しかないくせに、魔法使いの名家の人間ってだけで、エレノアと婚約出来るとか羨ましい……とか、俺の方が魔法使いとして上なのに……とか、愛想つかされちまえ! などの妬みを含んだ悪口を他のクラスの男子生徒から言われていたのは事実。


 ベイリーが言うように、俺が何故かクラスAに編入してしまったため、クラスBやクラスCに落ちた奴やそいつの仲間から恨まれるようになったのも事実。


 ソフィアが言うように、今回の一件でエレノアと仲の良い奴やウェインライト家と交流のある家の人間は、これからは俺の敵になってしまうというのも、もちろん事実。


 いやー俺、マジでヤバい。

 

 自分が本当にヤバいということに気づいてしまい、現実逃避したくなったので、またテーブルへ突っ伏そうとした時だった。


 現実は、そこまで甘くないということを知らせる声が食堂に響く。


 「ホラホラアンタ達! 始業まで三十分しかないよ! チンタラ朝食食べてるんじゃないよ!」


 ババ……寮母の声が食堂内によく響く。


 「……ベイリー、ソフィア、クロエ。多分すぐにクラスCに戻って来れそうだ。じゃあ、クラスA地獄に行ってくる」


 ああ……メチャクチャサボりてえ。

 そんな欲を抑えながら三人と別れ、食器の乗ったトレーを返却置き場に置いて食堂を出た。

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