第6話 実習前の座学

 「魔銃まじゅう魔法兵器まほうへいきを使うのは本当にピンチの時か戦争の時だけ。国内での犯罪対応は、魔棒まぼうか攻撃魔法が基本。魔法兵器は携帯しない……というか出来ないけど、魔銃に関しては携帯させられるからこそ、使い所を間違えると取り返しがつかない! 口を酸っぱくして、何度も言ってるね?」

 「先生、それなら魔棒や攻撃魔法の実習を増やした方が良いのでは? 使う頻度に対して、魔棒や攻撃魔法の特訓が少ないように思えます」


 朝の授業は、魔銃実習前の座学だった。

 俺は教壇から一番離れた席で、必死に眠気と戦っている。

 早く、座学なんか終われ。

 実習で怪我したフリして、学園抜け出して街へ美味いもん食いに行くんだから。


 そんな不真面目な俺とは違い、クラスAの他の連中は真面目に授業を聞き、疑問に思った所があれば、担任で実習担当のイザベラ先生にしっかり質問をしている。


 「はい、良い質問ですね。えーもちろん。一生、魔銃の引き金を実戦で引かずに、魔棒や魔法だけ使って退役した軍人もいます。しかし、安心して下さい。それは、戦場に一切出ない……つまり、一生出世するチャンスを与えられなかった軍人だからです。ここまで言えば、もう分かったかな?」

 「……いえ、ありがとうございます」

 「落ち込まなくても良いからね? この質問は、毎年あるの。軍にいるご家族から魔銃は使わないって話を聞いたんだろうけど、戦場がメインの軍人は、魔銃をガンガン使います。……あ、これ差別用語だから言っちゃダメだった。国内での犯罪対応をメインにしたいのなら、三年生から選択出来るから、その時にそっちルート選んでね。まあ、クラスAやクラスBとかにいる生徒の中で、そんな志が低い子なんかいない……か!」


 先生の発言に、教室内の空気がピリっとする。


 国内専というのは、戦場に出たことがない、戦場に出る資格が与えられてない軍人を揶揄した言葉だ。

 今は差別用語扱いなので、言うのは推奨されていない……が、この学園のクラスAやクラスB在籍経験のある軍人に国内専はほとんどいない。


 イザベラ先生は国内専とは真逆で、戦いの最前線にいて、なおかつ精鋭とまで呼ばれていたエリート軍人だった人間だからな。

 言葉の重みも違うし、空気をこうやって一変させる力も持っている。


 でも、そんなエリートだった人間が軍を辞めて、今こうして魔法学園の教師となっているのは、任務中の怪我の後遺症……視力低下によって、魔銃を以前のように使えなくなったので、戦場には必要ないという戦力外通告をされてしまったからだ。


 ……帝国軍のある精鋭軍人の末路という、半ば脅しのような話を学園長が入学式の時にしていたな。

 学園での実習で怪我しないように全てのことを真面目にやれ。

 軍人になってからも、大きな怪我をしてしまえばこうなってしまうぞ……と。


 この話の元となった精鋭軍人というのが、イザベラ先生だと学園内で知れ渡ってからは、彼女の授業を真面目に聞かない生徒はいないらしい。

 ……俺以外はな。


 だってこんな話、実家にいた頃嫌というほど聞かされたし。

 嫌というほど聞かされた上で、この不真面目さなんだからもう手遅れだということは、自分でも自覚しています。


 「……でも、もう一つ理由があります。アッカードくん、その理由を答えなさい。ずっと眠そうにしてたから、眠気覚ましよ」


 うへぇ……先生にバレてる……。

 しかも、先生がそんなこと言うから、アイツ真面目にやれよ……みたいな空気になってるじゃん。

 勘弁して。

 実習は真面目に出るし、ちゃんと答えます。


 「……凶悪犯罪が増えたから?」

 「ふんわりした答えね。具体的に言うと?」

 「……犯罪者の中にも魔銃を使う人間が出て来たり、退役した帝国軍人がその経歴を利用して犯罪グループに加入するケースが増えたので……言い方は悪いですけど、国内専でも魔銃使用がこれから増えるのは確実……」

 「うーん……もう良いわ。確かにそういう考えもあるけど、そういうことじゃないの。それと国内専は言うな」


 発言を遮られ、その理由は間違いだと告げられる。

 ……じゃあ、なんだよ。

 今、俺が言ったことは事実だろ。

 

 最近、退役した帝国軍人の不祥事多過ぎじゃないですかね?

 主に、イザベラ先生と近い年齢の二十代後半から三十代前半の人達の。

 魔銃が横流しされて、犯罪グループの手に渡っているってのも、不祥事を起こした連中が関わっているからだとしか、思えないんだけど。


 「正しい理由を教えるから、ちゃんとアッカードくんも話を聞いてね」

 「……はい」

 「帝国軍人が魔棒や魔法を使えるのは当たり前で……」


 ……エリート軍人だった人間が、そう言うのなら、なんか納得出来る理由があるのだろう。

 そう思って無理矢理納得しようとしたが、やっぱり無理だった。


 ……俺が何人、貴女と同期だった退役軍人を学園の指示で殺したと思ってんだ。


 心の中でそう呟くが、決して口には出さない。

 出してしまえば、この日常が失われる。


 それを俺は知っていたから。


 「アッカードくん!」

 「なんですか……話なら聞いてますけど……」

 「……じゃあ今なんて言ったのか言ってみろ」

 「…………」

 「アッカードくん? 次の実習は、先生と組みましょうか? ……魔銃の恐ろしさを身体で教えてやるよ」

 「えぇ……」


 ……この先生に目を付けられている時点で、学園での日常なんてとっくに失われてるか!

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