第4話 照れ隠しだからといって許されるのか?
「はあ……や、やっちまった……」
寮に戻った俺は、勢いに任せてクラスであんな言動をしてしまったことを後悔していた。
ただでさえ敵が多いのに、わざわざを敵を作る言動なんかしなくてもいいだろうに……少し考えたら分かるだろ……俺はバカか……。
「あ、マックスだ。お疲れ……って、大分疲れてそうだね……」
せっかくの夕食の時間だというのに、寮の食堂のテーブルで突っ伏している奴がいたから、気になって話しかけてきたというわけではない。
「……おう、ベイリーか。早速やらかしてな」
話しかけてきたのは、眼鏡をかけた黒髪ロングの少女。
俺が元いたCクラスで、特に仲が良かったベイリー・アイバーソンである。
「あ……あはは……や、やらかすの早過ぎない? と、とりあえずご飯食べて元気出しなよ。マックスの分も持ってきてあげたから」
「悪いな。クラスが別になっても、こうして迷惑かけて」
ベイリーが持ってきてくれた夕食を受け取り、テーブルへと置く。
うへえ……今日も相変わらず質素な飯だねえ。
文句言ったら寮から出てけ! って怒鳴られそうだから口には出さないけど。
「……で? また遅刻でもしたの?」
向かいの席に座ったベイリーが、呆れながら何をしたんだと聞いてくる。
「遅刻は当たり前のようにしたよ。起きたらすでに午後だった。問題はその後だ」
「遅刻は良いんだ……クラスCの頃と何も変わってないね」
やれやれと諦観しながら、夕食を口に運ぶベイリー。
そりゃそうだろ……クラスAに編入が決まって一ヶ月が過ぎた程度だぞ?
そんな短い期間で変われるなら、俺は寝坊の常習犯になっているわけがない。
そんなことよりも。
「聞いてくれよ、ベイリー。エレノアにハメられたんだよ……」
「えっ、ウェインライトさん? ……気のせいかな? さっき学園の女の子達が、マックスとウェインライトさんのことを話していたんだよね」
「……なんのことだ?」
「マックスが逆ギレして、ウェインライトさんを泣かせたって。本当にそんなことしたの?」
「…………」
女子のネットワーク早過ぎない?
え? そんな短時間で噂広まんの?
この情報が早く広まるように、誰かがこの情報に速度強化魔法でも使った?
……まあ、広めるんだったら正しい情報を広めろよって、俺は言いたい。
「そんなわけないだろ。勝手にエレノアが喧嘩売ってきて、勝手にヒステリック起こして、勝手に泣いただけだぞ」
俺は何も悪くない。
仮に悪かったとすれば、無視してあの場は去るという判断が出来なかったこととクラスAの他の連中が多く残っている前で、婚約破棄の理由を言い放ってしまったことの二つだけだな。
そもそも、エレノアがなんで黙って婚約破棄したのよ! って多くの人の前で大声で聞いてこなけりゃこんなことにはならなかったから、やっぱり俺じゃなくて、エレノアが悪いな。
はー、あんなヒステリック女、やっぱり婚約破棄して正解だったぜ。
「私はその場にいなかったから、判断が出来ないけど……言い過ぎたんじゃないの?」
「……? お前の言動が受け入れられないから婚約破棄したんだぞってクラスAの連中の前で言ってやっただけだが? 勢いに任せてだけど」
「……ああ、なるほどね」
ベイリーはなるほどと言うと、やっぱり悪いのはお前じゃないか……という目で俺を見てくる。
……なんでだよ。
「おい、ちょっと待て。なんだその目は?」
「やっぱり、気付いてないなあ……って。ウェインライトさん、結構本気でマックスのこと好きだったみたいだし」
「は? ハハッ……アハハ……お前も面白い冗談言うんだな?」
ベイリーがあまりにもおかしなことを言うので、思わず俺は笑ってしまう。
エレノアが俺を本気で好きだった?
ないない。
絶対にないね。
「いやいや冗談なんかじゃないって、ウェインライトさんは結構本気でマックスのこと好きだったと思うよ? マックスに冷たくしていたのも照れ隠しだって」
「は? 照れ隠し?」
ベイリーの言った、照れ隠しという言葉に引っかかってしまった。
「おいおいちょっと待て? 照れ隠しだからって理由があれば、エレノアやエレノアの取り巻き連中が、お前やクラスCの奴らに言ったことややったことが許されるのか?」
「ご……ごめん。そ、そんな怒るとは思わなくて……」
少し涙目になりながら、謝るベイリーを見て俺は冷静になる。
ベイリーは悪くない。
なのに何故俺は、問い詰めるようなことを……むしろベイリーは……被害者だろ。
「……悪い、ベイリー。でも、本当に俺のことが好きだったんなら、照れ隠しなんて理由であんなことをしちゃいけないと思うんだ。俺に悪態をつくだけだったら、俺はまだ耐えられた。……でも、お前やクラスCの奴らに……」
「ううん、私こそゴメンね? ウェインライトさん達が原因で、クラスCの一部の人達から、マックスがあまり良く思われなくなったのに、軽率だった。……も、もうこの話辞めよっか?」
「……そうだな」
俺達は、エレノアの話題をするのを辞め、当たり障りのない世間話をしながら夕食を食べた。
……ただ、ベイリーの言ったエレノアは本気で俺のことが好きだったというのは、俺の中でどこか引っかかったままだった。
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