第3話 改めて婚約破棄を
「ま、待ちなさい!」
「え? 俺、また何かやらかしまし……なんだお前かよ。ウェインライト家のお嬢様が、一体どういったご用事で?」
街へ軽食を買いに行くために、教室を出ようとした俺を呼び止めてきたのは、金髪のハーフアップという、いかにもわたくしはお嬢様ですわ! と主張しているような髪型をしている女……。
俺の元婚約者だった、エレノア・ウェインライトである。
……なんなんだコイツは?
普通、婚約破棄されたんだから、関わらないのが常識だよね?
……というか、俺がお前と婚約破棄するわって伝えた時、両親共々あんなにブチギレていた上に、俺がグワスマン家から追い出されるような情けない男だから、ウェインライト家から婚約破棄したんだ! って噂を学園中に流しておいて、よく話しかけられるな……。
まあ、その噂のおかげで、ただでさえ低い俺の周りからの評価が、ゼロになる程度で助かったんだけど。
「き、聞いてないわ! あなた、クラスAに編入するなんて、わたくしに言ってなかったじゃない!」
「は? 当たり前だろ? 教えるつもり無かったんだから」
……コイツは、一体何を言っているんだ?
わざわざ婚約破棄したい相手に、自分の評価が上がるようなことを伝えるわけねえだろ。
だが、流石はエレノア。
わざとらしい嫌がらせをしてくる。
「な、何よそれ! クラスAへ編入することを教えてくれていたら、たとえあなたがグワスマン家から追放されたとしても、わたくしは見捨てなかったわ! 何も、あんな嘘までついてわたくしと婚約破棄する必要なかったじゃない!」
「…………」
うわー……相変わらず性格悪いな。
何もクラスメイトの前で、わざとらしい大きな声で、今回の一件を話さなくてもいいじゃん。
そんな嘘泣きまでしてさ……。
クラスメイトの視線が痛いですよ。
特に女子生徒からの。
……いや、待てよ?
コイツ、自分が性格が悪いってことを自覚していなさそうだから、性格悪いから婚約破棄してくれって俺の言葉を、嘘だと思っているのか?
え、まさか本当の号泣?
だとしたら、性格が悪いことに無自覚な分、なおさらたちが悪いんですけど。
「何とか言いなさいよ! わたくし達は、婿に迎えてもいい! そうも言ったじゃない! なのに……なのになんで……」
あ、最悪じゃんこれ。
コイツ自分の性格の悪さ、自覚してなかった……。
本気で号泣しているエレノアを見て、ドン引きする。
そして多分俺は、クラスメイトにドン引きされていること間違いなし。
編入初日からやってくれるぜ……エレノア。
「……もう今更、泣こうが喚こうが、俺とお前が婚約し直すことはない。諦めろ。それに、俺よりもずっと優秀な、魔法使いの名家の人間から見合いの話が来ているんだろ? で、その話をお前は受けるわけじゃん? 何が不満なわけ?」
……ふっふっふ。
ただ、やられっぱなしでいられる俺じゃないぜ?
お前の親父が、自慢気に俺へ教えてくれたんだよ。
(「貴様より遥かに優秀な男から、エレノアと結婚したいとの申し出があった! 後悔するがいい! グワスマン家を追放された落ちこぼれがぁ!」)
プライドを傷つけられたから、俺にやり返さずにはいられなかったんだろうが……。
バカだな、お前の親父は。
わざわざ、自分の娘がハイスペック男に乗り換えたという証拠を俺に与えてくれたんだからな!
お前が俺のことを、嘘をついて婚約破棄した最低男に仕立て上げたいというのなら、俺はお前のことをハイスペック男を見つけたら、すぐに乗り換える尻軽女に仕立て上げてやる!
と、意気込んだものの。
「断ったに決まっているじゃない! そんなにすぐ、切り替えられるわけがないわ!」
「えっ……いや、お前の親父から直接聞いたんだけど……」
「断ったわよ!」
「あっ……そうなの? ……マジかよ」
はい、あっさり失敗しました。
むしろ、余計にエレノアを泣かせたせいで、更にクラスメイトから向けられる俺への視線が、鋭利になってます。
このままじゃ、視線に殺されちゃう!
「あのー……えっと……アッカードくん、だっけ?」
俺達のやり取りを見かねたのか、女子生徒が二人、俺達の間に割って入ってくる。
……コイツらは確か……エレノアの取り巻きか?
名前は知らないけど。
「ねえ? エレノアさんって、アッカードくんには勿体無いぐらい素敵な人だと思うんだ」
「……だから?」
「もう鈍感! もう一回婚約を申し込みなよ!」
「…………」
そう来たか。
もう一回婚約を申し込めって……アホかよ。
ああ……もういいや。
自覚が無いんだ、エレノアには。
この際だから、はっきり言ってやろう。
「エレノア」
「……マックス」
濡れた瞳で、エレノアは俺を見てくる。
……いい男なら、ここでもう一回婚約を申し込んでやるんだろう。
けど。
「何度も言わせるな。俺はお前の言動が受け入れられない。だから、婚約破棄したんだ。……許してねえからな。クラスCの奴らに、お前が……お前らが言ったこと……やったこと……」
エレノアだけでなく、エレノアの取り巻きにも聞こえるように、改めて俺は婚約破棄の意思を伝え、俺は教室を後にした。
クラスメイトからの視線は痛いし、エレノアとはいえ、泣かせるのは心苦しい。
だが、俺は認めない。
クラスAの人間だからって、自分達より実力が下の人間には、何を言っても、何をやってもいいだなんて。
学園が認めても、俺は認めねえからな。
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