第2話 自己紹介
「はーい、ザワザワしない! 前例の無いことだから、あなた達が騒ぎたくなるのは分かるけど、学園の決定よ! それに異を唱えるという者は、今すぐ学園を去りなさい!」
ざわついていたクラスAの教室は、クラスA担任のイザベラ・エスベドの注意によって、静かになる。
異を唱える者は学園を去りなさい! ……か。
相変わらず、この学園の教師は偉そうで困るね。
……まあ実際、ウッドマン帝国内では、インペリアル魔法学園の教師ってエリートだからな。
それに、クラスAの生徒達が騒ぐ原因を作ったのは俺なので、文句を言う権利などはないが。
「はい! それでは! 今日から新たな仲間がこのクラスAに加わります! クラスBをすっ飛ばしての編入という、前例の無い偉業を達成しただけあって、大物だわ〜! 新学年初日から遅刻するんだもの! というか、ほぼ欠席よね! 授業が全部終わってから登校してくるんだもの!」
「…………」
イザベラ先生の皮肉を交えたジョークに、笑う生徒は誰もいない。
教室の中は誰もいないかのように、シーンと静まり返っている。
……まあ、分かってはいたけど……歓迎されるわけがないか。
名家に生まれただけで、成績は平凡、素行は不良の問題児というのが、インペリアル魔法学園内での俺の評価だ。
俺が遅れましたと言って、教室に入った瞬間、クラスのほとんどの奴が俺を睨んでいたし。
「はい、それじゃ……マックス・グワスマンくん。クラスAの子達とはいえ、同級生だから顔見知りも多いだろうけど、改めて自己紹介してもらいましょうか」
「……先生、俺はグワスマン家を追い出されたので、グワスマンの姓を名乗ることは許されていません」
「え? あー……そうだったかしら? ああ! そういえばあなた、婿入りするって……」
「その話も無くなってます。なので、しっかり俺の名前を覚えて、名簿を直してください」
……名家に生まれたというのは、恵まれているとよく羨ましがられたりするが、追い出されたり、家で立場が無いと地獄だ。
俺みたいに、毎回説明しなくてはならなくなるからだ。
「えー……マックス・アッカードです。今年度より、クラスCからクラスAに編入することになりました。よろしくお願いします」
誰も俺の自己紹介など、聞きたくないだろう。
簡潔に自己紹介を終わらせた。
「他になんか言うことないの? 面白くないわね」
「別に……無いですね。先生の言う通り、知っている顔がちらほらいるんで。……まあ、仲良くなれなそうな奴が若干名いますけど」
そう言いながら、視線を廊下側へ向ける。
お前のことだよ。
お前だからな? という俺なりのメッセージが届いたのか、元婚約者のエレノア・ウェインライトは、あからさまに顔をそらす。
……ワガママな上に、プライドが高いウェインライト家のお嬢様にとって、俺みたいな落ちこぼれに婚約破棄されたことは屈辱でしかないだろう。
まあ、プライドの高いあいつがグワスマン家を追い出された俺に愛想を尽かしたから、ウェインライト家から、婚約破棄をしたというガセを流してくれたおかげで、俺がグワスマン家にダメージを与えるためだけに婚約破棄したという愚行がバレなかったのは感謝してるけど。
一番は、お前の性格がゴミだから、俺に婚約破棄されたってことを理解しろよ? エレノア?
「はあ……噂通りね。まあ……いいわ、クラスAは素行不良でも関係ない。ただ、これだけは覚えておきなさい。あなたがクラスAへと編入出来たのも、クラスBに落ちた生徒がいたからだということを。この学園は強さこそが全てだということをね」
「……ええ、覚えておきますよ」
さっきまでとは違う、真面目な表情で、イザベラは俺に忠告した。
流石だな。
真面目な表情をしただけで、そんな圧をかけられるのかよ。
先生の圧に気圧されて思わず、テンプレのような言葉しか返せなかった。
俺達二年生のクラスAの担任、イザベラ・エスベドは、かつてウッドマン帝国軍の精鋭として、強力な魔法で多くの敵兵を葬ったエリート軍人でもあった人間だ。
任務中に部下を庇った際、後遺症が残るレベルの怪我をしてしまったため、軍を辞める……という話を聞いたこの学園の学園長が、経験を活かして、後進育成のための教育者となってくれと、イザベラが軍を辞めたその日に、スカウトしに行っただけはある。
……まあ、だからこそ、能力だけでなく、プライドも高いクラスAの連中が、イザベラには、素直に従っているんだろう。
そんなことを考えていると、チャイムが鳴った。
「それじゃ、マックスくんの自己紹介も終わったし、今日はここまで! みんな、気をつけて寮や家に帰るのよ!」
学校に来た時間が、そもそも遅かったというのもあるが、俺のクラス編入初日は自己紹介だけだったので、絡まれたりすることもなく無事に終わりそうだ。
……さーてと、俺は寮に帰って……いや? 街に行って、軽食でも買って食べてから帰るとするか。
あのババア……寮母に決められた時間以外で飯を作ってくれと頼んだ所で、作ってくれるわけが無いからな。
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