第8話 魔法訓練開始
昨日は何時まで話し込んでいただろうか、徹夜をする事は今まででも日常茶飯事だった。
でも、今回のはそれとは全然違う。
仕事に追われ、心身ともに限界まで削られる徹夜ではなく、親しい人と楽しく話し笑い、癒された徹夜は初めてだった。
さすがにソフィーは眠っているが、それでも長い間起きていたと思う。
『こんなに清々しい朝は初めてかもね』
ソフィーが隣でスヤスヤと寝ている、そして窓際に置かれたランタン、寝ていないから夢ではない事は分かっていたが本当に別の世界に来ているのだと、そしてこれからどんな事が待っているのかと不安にも思う。
しばらくしてソフィーが目を覚ました。流石にまだ眠そうにしていた。その表情を見ていると王女とは思えず、まだ10代の女の子そのものだった。
「おはようございます、マユミ」
「おはよう、ソフィー」
「寝れましたか?」
「ううん、今日は寝てないんだ」
「あら、大丈夫ですの?」
「大丈夫、大丈夫。寝ない事には慣れているから」
「ですが……」
「本当に大丈夫よ。こんな清々しい朝は本当に初めて」
「なら、良いのですけど」
2人して朝の支度をし、ダイニングに行くと既に侍女さんは起きていて朝食の準備をしていた。
「おはよう」「おはようございます」
「おはようございます。ソフィー様、マユミ様」
「私手伝いますね」
「いえいえ、マユミ様大丈夫ですよ」
「良いんです。私がしたいと思ったのですから」
「……では、よろしくお願いします」
「はい、こちらの物をテーブルに置いたら良いですか?」
「はい、よろしくお願いします」
そんな話をしていると王妃様……アリエラ様が起きてこられた。
「おはようございます。皆さん」
「おはよう、ママ」ソフィー
「おはようございます。アリエラ様」私
「おはようございます、奥様」侍女さん
朝なのにお美しい、幾つくらいなのだろうか、と見ていると。
「マユミさん? どうかされましたか」
「いえ、すいません」
『はぁぇ〜、また凝視し過ぎた』
「ところでマユミさん、昨夜はよく寝れましたか?」
「あぁ〜、昨日は寝てないんですよ」
「あら、何かご不便な点でも?」
「いえいえ、とんでもございません。私がそうしたかったのです」
「寝ない事ですか?」
「私がこちら【異世界】に来てから、全ての事が新しく、新鮮で驚きなんです。その事で年甲斐もなくドキドキワクワクが止まらなかったのです」
「そうでしたか、なら良かったですわ。しかし、年甲斐もなくと言いますけどまだまだお若いでしょうに」
「いえいえ、もう20も半ばですので」
「そうでしたか、結婚はされていますの?」
「あぁー、いえ全く…この歳までご縁がありませんでしたね」
「あら、勿体無い、こんなにもお美しいのに」
その後「そうねぇ〜」と、独り言を話されながら私のことをマジマジと見ていた。
そして「ふふ」っと笑みを浮かべていた。
『え! なに? その笑みは……』
「さぁ、朝食に致しましょうか」
アリエラ様より号令がかかり、4人でいつもとは違う豪華な朝食を食べた。
食後アリエラ様より、「今日は魔法の練習をされるのでしたね?」と聞かれ、「はい」とソフィー。
「では、担当の者に伝えてあるのでその方に教わると良いかと思いますよ」
『担当の者?』
誰だろう、と思いながらも考えてもわからないので、時間までソフィーと話したり準備をした。
そして、しばらくの後この家に来客が来た。
1人は昨日見たので知っている、セバスさんだ。
そして、もう1人。
「おはようございます、アリエラ様」
アリエラ様に深く挨拶をする男性、そしてその後ろにいたセバスさんも同様にしている。
こうして見るとやっぱりアリエラ様は王妃様なのだと思わずにはいられない。
「マユミ、紹介します。この者は王宮で魔法、魔術の指導をしているロニオです」
「お初にお目にかかります。エルランド王国、宮廷魔術師指導隊長をさせて頂いています、ロニオ・ビンチャーと申します」
「初めまして、マユミと申します。今日はよろしくお願いします」
「ソフィー様もおはようございます」
「おはよう、ロニオ。セバスも」
「はい、おはようございます」
朝の挨拶と自己紹介が済みセバスさんの転移魔法により4人は転移をした。
次に目を開けた場所には緑も何もない荒野が広がる場所だった。
「ここならどんな魔法でも練習が出来ますね」
ソフィーが最初に声を出す。
「では、マユミ様。早速なのですがどの様な魔法が使えますか?」
ロニオさんの質問に昨日から続く何度目かの質問に答える。
「では、順番に発動していきましょうか」
「お願いします」
『うわぁ〜、緊張する〜』
「ではまず、4大魔法からですが、火・水・風・土の魔法があり、魔法はイメージにて構築し詠唱にて発動する形になります」
『ソフィーに教わったのと同じね』
「あぁ〜、ロニオごめんなさい。説明している時に」
「いえ、構いませんよソフィー様。いかが致しましたか?」
「マユミは、おそらく聖属性魔法が使えると思うのですよ」
「ほぉー、聖属性魔法ですか!」
「昨日凄いのを見させて頂きましたから」
「それはいったい?」
チラッとこちらを見て私の顔を伺うソフィー、話して良いものかを聞いているのだと思うけど、流石に隠し通せそうにもないので頷くことにした。
「昨日、ボアの命を復活させたのよ」
「……え!? ソフィー様今、何と?」
ロニオさんは、ソフィーとセバスさんに顔を向け、今聞いた事に対しての答え合わせをしている。
ソフィー、セバスさんともに笑顔で頷き肯定した。
「そう……ですか、死者蘇生という事ですか……。流石にそれは実演は無理だと思いますので、聖属性魔法が使えるのかやってみましょう」
『あぁ〜、だいぶ怪しまれてるぅ〜。凄い見られてるし』
「では、聖属性魔法の基礎ですが【ヒール】というのがあります、それをしてみましょう」
『ソフィーが使った魔法ね』
「【ヒール】は主に人に使いますが傷を癒す魔法ですので、イメージもしやすいかと思います。今は誰も怪我をしていませんので効果の程は分かりませんが、発動したかは確認ができますのでやってみて下さい」
『傷を癒すイメージか……でも、傷ってどこまでの範囲をイメージしたら良いのかな、まぁ一部だけじゃ無く全身の傷を一度に治せたら楽だよね、それにそれなら悩む必要がないし』
そんな事を考えていると私を中心に緑色の光が溢れ出す。
最初は小さい光だったが次第に大きくなり4人を囲む様に溢れていた。
「マユミ様、大丈夫ですか!?」ロニオさんが話しかけてくる。
「マユミ、これは!」ソフィーも何か驚きの声をあげている。
そして。
「ヒール」
その瞬間、4人を包む優しい光はより一層輝きを増しキラキラと周囲に降り注いだのだ。
「これは!」
「凄い!」
「ほぉ〜!」
ロニオさん、ソフィー、セバスさんと三者三様の反応を示した。
『……え?』
事が終わった後、皆んなを見ると凄い驚いた表情をしていた。
『……なにかまた、まずい事でもしたのかな?』
「マユミ様、今のは【ヒール】なのですか?」
「そうだと思ったのですが、違いました?」
「マユミ、【ヒール】はあそこまで広範囲に発動はしないは、それにあの魔法量は【ヒール】のものではなかった」
「へ! へぇー」
その時だった。「こ、これは!」
セバスさんが、声をあげた。
「セバス、どうかしたの?」
「あ、いえお嬢様。 気のせいかもしれませんが……」
「どうしたの?」
「若い頃に痛めた古傷が右の足にあったのですが、その違和感が全くありません」
昔セバスさんが王宮にて騎士をしていた時痛めた古傷だそうで、歩くなどの日常生活には特に支障は無かったのだが、違和感は常にあったそうだ。
しかし、それが今は綺麗さっぱり消えているという。
「ロニオ、【ヒール】に古傷を癒す効果がありましたかしら?」
「いえ、お嬢様。【ヒール】は小さな傷、軽傷者などを癒す魔法です。しかも、古傷というのは傷には分類しておらず魔法でも中々治す事が出来ないのです」
「ですが、その古傷をマユミの魔法は癒したと」
「そう、なりますね」
『あぁー、凄い見られてる』
「とりあえず、聖属性魔法にかなりの適性がある事がわかりました。今の魔法が【ヒール】かどうかは不明ですが」
「ありがとうございます、他のも試したいのですが」
そこからは私の独壇場の様な感じだった。
次に試したのが4大魔法だったのだが、全ての属性に対して聖属性魔法の様な異常な適性は無いにしても、難なく発動する事ができた。
「えぇ〜と、私今日必要でした?」
ロニオさんが少し凹んでいた。
「ロニオ、気にしないでマユミが凄いだけで、ロニオは問題ないから」
「ありがとうございます、ソフィー様」
それもそのはず、私としては普通にしているつもりだったのだが、火・水・風・土のどの魔法でも、ロニオさんの1.5割り増しの威力が出ていたのだ。
『えぇ〜っと、あれですよ加減を知らないだけですよ。多分』
心の中で納得させておいた。
『でも、この炎』
「ロニオさん少し試してみても良いですか?」
「え、あっはい、どうぞ」
『炎といえば赤、オレンジ色だけど青色もあるのよね』
そんな事を考えながら、構築していく。
『炎、炎に必要な物、酸素か!』
少し練習をしていて小さな炎を指先に出す事が出来ていた私だが、その炎は赤く燃えていた。
しかし、酸素というイメージを出した瞬間、赤色だった炎が青くなり炎の威力も格段に上がったのだ。
「「青の炎」」
ロニオさんとソフィーが驚きの声を出し、セバスさんは目を丸くしていた。
『イメージの力か、面白いわね』
「その、炎は何ですか?」
ロニオさんが聞いてくる。
「これは普通の炎に酸素というものをイメージして出した炎です」
「酸素?」
『そうか、こっちでは酸素という概念がないんだ』
「人がこうして生きていられるのは酸素という空気の中にある成分のお陰なのですが、その酸素というのは炎、つまり火を使うのに必要不可欠なものなんですよ。逆に酸素が無くなると炎は消えてしまいます。
赤色の炎に酸素を注ぐイメージをすると火力が上がり青色の炎が出るんです」
「そう、なんですね」
そう言うと、ロニオさんも試していたが、どうも酸素というのがイメージし辛いらしく上手くできないでいた。
「うん〜やはり私にはわからないですね。また修行が必要です」
少し落ち込んだ方思ったが、まだ上があるのだと感じたのかやる気が出てきた様子だった。
「では、次をお願いします」
それを聞いたロニオさんは何度目かの驚きの顔をした。
それもそのはずだ、聖属性魔法に4大魔法まで使えるなんて、それだけでも前代未聞だ。しかも、これまででもかなりの魔力を使っているからだ。
「お体は大丈夫ですか?」
「はい、まだ大丈夫ですよ」
「そう、ですか。では、続けましょうか」
「お願いします」
「あのぉ〜、マユミ。その前にお昼にしませんか?」
熱中し過ぎて忘れていたが、確かにお腹が減ったかも。
「そうですね、お腹が減りましたね」
一旦魔法の訓練を、終え昼食をとることにしたのだった。
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