第17話 新たな任務
ピリピレオはゆっくり深くうなずく。
「わかった。
まず大華厳龍國に連絡を取る」
そう言ってMPCでメールを送った。沈黙の数分が過ぎた。着信音が鳴る。
「回答を受信した。君ら戦士の確認はできた。うむ」
腕を組んで考え始める。やがて、
「では諸君、これは皇帝の信頼厚き劉玄(りゅうげん)大丞相を補佐する大輔弼(ほひつ)官、尹殷(いんいん)卿の提案であるのだが、余も今、思慮し、良き策であると思える。
誇り高き戦士諸君よ、チヒラとイラフは既に任務を終えたし、ユーカレはアグール追討と目的が重なるはずだ。何が言いたいか、わかるか?」
戦士らは首を横に振った。
「諸君らは、今ここにいるエル殿をリョンリャンリューゼンの首都である大元汎(だいげんはん)都まで護衛してはくれまいか」
黒服の男も、三人の戦士も眼を睜(みひら)く。
「何ですって!」
「しかし彼は、いったい、何者なのでしょうか」
ペパー・グリーンの光を強めてイラフが問い詰めるように質問したが、大司教は、
「今はその質問に答えられない」
「しかし彼はシルヴィエ帝国の人間では」
「そうだ」
「神聖帝国の人間を護るのですか」
「そうだ。理由は説明できない」
「しかし敵は何者ですか? 誰から誰を護るかも知らせてもらえないのか」
「そのとおり。真実を知らずとも生きて行ける。真理は常に秘匿され、現実の実相はその姿を顕わにしない」
藤色のまつ毛を翳してチヒラがうなずき、
「わかりました。説明がないことなど、よくあることです。命令に従うのみです。
ちなみにルートの指定は」
「ない。ただし絶対に安全な方法だ」
「この世に絶対はありません」
「この件に関しては絶対が条件だ」
「不可能です」
「君らに拒否権があるのか」
「・・・・ありません」
チヒラのその言葉の後に、咳払いしてからユーカレが言う、
「了解しました。
ただし、絶対に、というオーダーなら、いくら精鋭とは言え、我々だけでは手薄でしょうね」
「わかっている。皇帝もそれを考慮しておられる」
桃色の眸を猜疑で曇らせてチヒラが問う、
「彼はここに来るまでどのように警護されていたのでしょう」
「志ある屈強な戦士と聡明な従者がいた。だが」
「・・・やられてしまったわけですね」
「そうだ」
さらにチヒラが、
「皇帝は、いった、どのような配慮をお考えでしょうか」
「尹殷(いんいん)卿がノルテで潜伏活動中の軍人を大至急招集すると言っておられる」
「どこに、いつまでに」
「この周辺に。第一弾は今日中に来るだろう。後は追って道々集まるであろう」
「何人くらいですか」
「今日、集まる者が何人であるかという問いなら、定かではないと答えよう。
だが最終的には百名ほどになる。ということだ」
「わかりました。どこの部隊に属していますか」
そう訊いたのはユーカレであった。
「まて、添付ファイルを見る。ふむ。
陸海両軍の特殊部隊だ。一部は大華厳龍國が長年契約している外国人傭兵だ。またクラウド連邦と合意ができているとのことだ。連邦からも戦士の派遣が得られるということらしい。メールの最後にこうある。
彼らを特殊作戦部隊SFE(セフイSecurity Forces for EL)と呼ぶ、と。大輔弼官殿はさように伝えてきておる」
「了解しました。出発は明日でしょうね」
イラフの問いに、ピリピレオは厳粛な面持ちで、
「準備出来次第、すぐに、だ。
エル殿がここにいることが既に知られてしまっている以上、一刻の猶予もならん。これは侮ることのできぬ事態なのだ。
ともかく準備が終わるまでは、この中から出ずに、出来次第で秘密の出口から彼とともに出発してもらう。
ちなみに、ルートについての考えはあるか」
濃いクリムゾンとボルドー・カラーの絡む髪をいじりながらチヒラがユーカレの顔を見つつ、応えた。
「ぼくらが行こうとしていたルートで行きます。シルヴィエ帝国領を横切ります」
二人の頭がならぶと紅白の梅のようだと、イラフは唐突に気が附いてくすっと笑う。
チヒラの応えに院長は少し顔を顰めた。
「意外だが、良かろう。君らはプロフェッショナルだ」
イラフが尋ねる。
「エルという、彼のなまえは本名ですか」
「それも答えられぬ」
そう言ってからピリピレオは手を挙げてもう下がれと言う合図をした。
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