第11話千手観音
「おいっ! てめえ!! 待ちやがれ!!」
異変に気付いたファンが信也の前途を阻む。千手観音のようにニュっと複数の腕が人垣から飛び出す。その一つ一つが信也の服を掴むが。
だが、同時に彼の身体がアナログ地上波テレビのゴースト像のように幾重にも重りあう。結局、誰一人として彼を捕まえる事は出来なかった。
「どうなってやがるんだ? 人が…まるで…金魚すくいだ」
濡れた指で和紙をつつくように信也はあっさりと人の壁を突破した。
「そっ、それでは、ちょっぴり早いいざないのファーストライト! カウントダウン、はっじまるよ~」
カプリコーンが引きつった顔でマイクを掲げる。
「ちょ、運営何やってるん? 信也とかいうキチオタ。まだ走ってるじゃん」
気の短いタウランが地団駄を踏んでいる。
「沙月、沙月、俺の沙月。いま、助けてやる。量子だか里子だかわけのわからん性的暴虐集団め。何がテレスコープだ。お前らは女の下半身をテレスコープしたいだけだろうが!」
怨念と独占欲の虜となった信也は大股のストライドで黒山の人だかりを飛び越え、靴先で顔面を蹴り、背中を踏み台にしてステージへ肉薄する。
「…30…25」
指折り数えるカプリコーンがもどかしい。隔靴掻痒の想いでライブラは運営を焚きつけた。
「もうちょっと早くできないの? キチがステージにあがっちゃう」
「んな無茶ぶりできっかよ! 手順書と言う段取りがあってだなあ」
運営スタッフが施設職員にダメもとで起動の繰り上げを要請し、速攻で却下される。
「繰り上げて、どうにかなるってもんじゃないでしょ。何考えてるのよ、ライブラ。貴女ねぇ!」
怒りん坊のスコルピアが声を荒げる。
「いいから、一刻も早くファーストライトするのよ。観客席にアンドロメダ銀河が写像する予定でしょ。最大のスピンよ。その間に」
「ちょ、それネタバレ」
「いーから、さっさとおやり!」
ライブラは姉御肌全開でスタッフをどやしつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます