第10話接近警報音
インカムに警報が鳴り響く。ピピピッ、ピピピッという鳥のさえずりに加えてクゥーッ、クゥーッ、クウーッツと土鳩のうめきが音階を駆け上がっていく。
「えっ? 接近警報音? 誰なの?」
センターの女の子が内線を通じて問いかける。もちろん、会話はテレスコープ全員に同報されている。沙月のコンタクトレンズにデジタル表示が浮かび上がり、防犯カメラの拡大映像がワイプインする。
「え、ちょっと。信也じゃん。なんで来てるのよ!?」
沙月は思わず仰け反った。もちろん、独話は放送されない。失言を防止するため、彼女たちの発言は随時検閲されており、遅延して発信される。そして場合によってはAIフィルターが内緒話として適宜回線を切り替える。
「カプリコーン、あんたの元カレなの?」
センターのライブラが眉をひそめた。
「ええ、でも、過去の人よ。だってあの人、生活保護受給者だもの。テレスコープがホームレスと付き合ってたなんて、解散物のスキャンダルよ」
沙月は忌々し気に言い捨てた。同時に「ええーっ」というどよめきが回線を満たす。
「ちょ、ちょ、みんな。カプリコーンの知らない人だって。要するにストーカー。きっしょ。さっさとK(警察)呼んじゃって」
ライブラは抜群の統率力でメンバーの鎮静化をはかった。
ステージはざわついたが、テレスコープの他メンがとっさのアドリブでトークをつないだ。観客たちはそれを可愛らしいざわめきとして好意的に受け取った。
「さて、いざないの凄い所はですねぇ」
日本人特有の和を重んじるこころ。つまり共感能力を量子演算プロセッサのアーキテクチャに加味した点である。クラウドをふくめた複数のデバイスが中央制御装置と一心同体となって写像を結ぶ。
「ここで館長からのサプライズです」
テレスコープのお転婆娘レオネが老紳士を連れて登場する。
「話題逸らし。スピンコントロールよ。カプリコーン、あなた、私服警官が信也を現行犯逮捕する間にファンの気をうまく逸らして。いざないの起動を繰り上げるのよ」
ライブラがいきなり振って来た。
「え、でも信也が」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます