第6話カプリコーンの沙月
「私達の意志は量子力学の状態によって決まるのです」
カプリコーンの沙月は、講座の核心にせまりつつあった。今日のメインテーマは男女の引き寄せについてである。
レジュメによれば、人間の意識と眼前で起きる事象には相関関係がある。つまり、認識が実体化する世界に我々は住んでいるのだ。それは観測行為が対象に干渉するという原理から導かれる。
これはコーヒー好きの主人に仕える召使に例えられる。困った事にご主人様は猫舌でありながら、冷めたコーヒーが大嫌いだという。
そこで召使は検温しながら淹れるのであるが、冬のさなかなどは特に苦労させられる。温度計は室温まで冷えており、そのままでは使い物にならない。
せっかく沸かしたお湯から温度計が熱を奪ってしまうのだ。そこでご主人様の希望する適温に若干の誤差は避けられない。しかし、さりとて温度計をコーヒーカップと一緒に暖めたのでは本末転倒だ。
つまり、物事に関わるという行為に正確性を保証することは不可能だ。互いに干渉する事で事実に曖昧さが生まれる。そして、この観測(干渉)するという行動は人間によって自発される。
すなわち、「行動しよう」という意志の力が現実に影響を及ぼすと言って過言ではない。
これを念頭に置けば量子的引き寄せと言う概念が生まれる。自分の意識が現象を作るのであれば、期待や熱意が恋を引き寄せるのではないか。
沙月はワクワクするような現象を語った。場内が一気にヒートアップする。
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