第35話 チェルトーザとテンモンカン
イタリア、ボローニャ。
ルカ・スティーロはかつて愛した女の墓地にいた。
シェリル・プディング。それはブリウスの母親だ。
ルカは片想いだった
ブロンドの長い髪と青い瞳が美しかったシェリル。
都会で恋人と別れ、
そんな彼女がどこか哀れだった。
「別に気にしてないわ。彼には一緒になれない宿命があった。私が一瞬でも彼を愛した事実は変わらない。……それにしてもこの子、やんちゃ過ぎてさ。彼よりルカ兄ちゃんを想起させる」と言って笑うシェリルが可愛かった。
彼女の病床でブリウスを預かる決意をしたのを思い出す。
ブリウスは施設を嫌がった。
最後彼女は嬉しそうにルカの頬にキスをした。
周りの反対を押し切ってでも結婚すりゃあよかった……俺はお前が好きだったと、ルカは墓石の前で呟いた。
まともな仕事に就くまでもう少し待ってくれと自分に言い聞かせながらブリウスを連れ回した日々。
故郷でいい仕事が見つかり、ブリウスを連れて行く心算をシェリルに語りかけた。
それでもまた、思い直す自分がいた。
「……んん。だがなシェリル。ブリウスとクリシアを引き離すなんてやっぱできそうにねえ。あいつらお似合いだからな。うん、やっぱり仕事はイーストリートで探してみるさ」
ウイスキーの小瓶の蓋を開け微笑んだその時、ルカを訪ねてくる男がいた。
中庭を歩いてくるスーツ姿の男。
振り向くルカに男はサングラスを外した。
「大切な時間を邪魔してすまないルカ」
「……あんたは。もしやハリー・イーグル警部補か?」
高い鼻が特徴のソサエティのハリー。
「知っていたか。さすがだ」
「そちらさんこそ。
空が曇ってくる。
ポツリ、ポツリと降り出す雨。
ハリーは墓石の前に腰を下ろし、静かに祈った。
ありがとうと呟いたルカは立ち上がり、ハリーの肩を掴んだ。
「嫌な予感しかしないぜハリーさん」
ハリーの言葉は稲光のように、
「うむ。ジミーがナピスに捕まった」
****
日本、南国鹿児島。
その夜、不穏な風が石畳を吹き抜けた。
鑑定台の行灯の
ホウリンはじろりと見上げる。
見下ろす男は煙草に火を着け顔を浮かび上がらせた。
「ハーレーの革ジャンを着た易者は何を占う?」
男の問いにホウリンは苦笑した。男は言う。
「あんたを迎えに来た。〝ホウリン〟……矢吹鉄二」
ギロリと睨むホウリン。
「誰だてめえは」
「ダグラス・ステイヤー」
男はそう答え、煙を吐いた。
「知らねえな。俺は知らねえ奴と喋る趣味はねえんだ。帰れ」
ホウリンは既に後方に跳ぶ構えでいた。
デカいシロクマのオブジェが少し邪魔だと考えながら。
ダグラスは薄笑いで指摘する。
「いや、そう跳んでは膝を痛める」
「おい何者だ? ステイヤーさんとやら」
「……ナピスの使い。と言ったら?」
「へっ。そんなこったろうと思ったぜ。聞いてたさ。そのうち来るってな」
「あんたの仲間ジミー・リックスが待ってる。エルドランドのグラウンド411、エリアNPCで」
「何だって?」
「俺はソサエティの人間だ」
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