third season
第22話 キャプテン・キーティング
一七五〇年。
海賊船〝デッド・ポエッツ・ソサエティ号〟は王族の豪華客船を襲った。
荒くれ者たちが着飾った者たちから金品を奪ってゆく。
操舵室、その船長ノーランに歩み寄ってゆく海賊キャプテン・キーティング。
腰を抜かし、ぶるぶると震えあがるノーラン。
キーティングはサーベルを抜き、問いただす。
「船長よ。船倉には何を積んでいる?」
「……しょ、食料だ」
「嘘だ。俺に嘘をつくな。貴様らが言うところの〝
「……もう金は盗っただろう、見逃してくれ」
ぜえぜえと胸をさすりながらノーランは懐をまさぐった。
「解放するんだ。貴様らの方が上だなどと勘違いするな。寧ろ彼らの方が神に近い」
次の瞬間、銃を引き抜いたノーランは手首ごと斬られ、そのまま胸を貫かれた。
側近の二人、ベルザとカイザが駆け上がってくる。
「キャプテン、今し方牢を破り、彼らを解放しました」
「人数は?」
「およそ百名」
「ベルザ。その
「はい」
カイザが得意げに呟く。
「金になりますね、キャプテン」
「……はあ? 何がだ?」
「いやいや奴隷たちが。売りさばいてナンボでしょ? あ、それともコキ使うおつもりで?」
キーティングはカイザの左頬をぶっ叩いた。
「いっ、
「彼らの力は借りる。だが強要はしない。カイザよ真実を教えてやろう。彼らは爬虫人類レプタイルズ。我々よりも優れている」
ベルザは鎖に繋がれた一人を連れ、キーティングの下へ。
傷めつけられた顔、地肌の文様、纏うボロの下には隆々とした肩と胸が盛り上がっている。
血の滲んだ素足で、そのレプタイルズの頭領は完全に冷めた目でキーティングを見ていた。
キーティングは訊ねた。
「名前は?」
「……ヘイワース」
「すまない。まず先に名のるのが礼儀だな。俺はキャプテン・キーティング。君たちを解放するのは目的があってのこと」
ヘイワースは動じず見つめている。
だがその後、彼は目を見開いた。
なんとキーティングはひざまずき、頭を下げたのだ。
「頼むヘイワース。俺たちの仲間になってくれ」
****
一九六〇年。
そこはエルドランド北東部、ゴーストン峡谷にあるナピス本拠地。
冷気漂う闇の空間では最新鋭の生命維持装置が稼働している。
傾けた玉座の背にもたれ、無数のチューブに繋がれた老いた男がいる。
それはリガル・ナピス。
彼は酸素マスクを外し、ドス黒く変色した左の頬をさする。
その仕草は癖なんだと取り巻く配下たちは知っていたが、その因果は知らされていない。
リガル・ナピスはまるで墓場から蘇る
「……初めに武器ありき。人類は武器を使って未来を広げた。人類の歴史は殺戮と略奪。繁栄の裏には戦争がある。私はただの鍛冶屋だ。商売人だ。国やテロ組織が望み必要とする道具を作り、売りさばいてきただけだ。この手で。この手で時代を切り拓く剣を作り、この手で
一人を指差すリガル・ナピス。
長身に口髭をたくわえた眼鏡の男を。
「刑務所所長のウォルチタウアー。お前の手腕を振るう時だ。多くの実験台を提供せよ」
その隣りを手招きするナピス。
「よくぞ調べ上げたヴァル・ヴォーンよ」
生成りのスーツにアッシュブロンド髪の男が側に寄る。
彼はナピス・ファミリーの斥候。
「ヴォーン。お前は〝ソウルズ〟を捕らえよ。キーを盗んだのはリッチー・ヘイワース筆頭の四人組で間違いない。だが殺すのではない。生け捕りだ」
他の者たちにはこれまで以上の
「ソサエティ狩りを強化せよ。レプタイルズ・キーによってベルザはおそらく最終兵器ヘヴンズパールを手にした。なんとしてでもそれを奪い、奴を抹殺するのだ」
覆い被さる
「いずれ我々はここを拠点にこのエルドランドを掌握する。我々の国家を作るのだ。果たそうではないか。キーティングが成し得なかった夢を」
再び酸素マスクを装着し、リガル・ナピスは横たわった。
白煙と闇に赤く光る二つの点が玉座のぐるりを這う。
それはナピスの影。
配下が守護神と崇めるレプタイルズ〝鰐の化身〟デュークの目だ……。
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