第21話 天界の真珠〝ヘヴンズパール〟

 午後十時、イーストリートのポールの店に着く。

 ルカはジャックたちを連れ、中へ。

 ポールはカウンターで一人、ワインを注いでいた。

 ルカが謝った。

「すまん! ポール、迷惑かけちまって……」

「……おお。お帰り」

 ブリウスはびくびくとポールの前に立ち、泣きながら謝った。

「……ご、ごめんなさい」

 ギロリと睨むポール。

 そしてブリウスの書き置きの紙をクシャッと丸めてゴミ箱に捨てた。


「必ず生きて帰ってきますって……おい! 俺のフィアット愛車は無傷なんだろうな? 俺のサヴォイア号は!」

「は、はい!」

 クリシアもしくしく肩を震わせている。

 ジャックはブリウスの肩を掴み、前へ出た。

「ポールさん、ごめんなさい。悪いのは全部俺です。俺がブリウスに運転しろと」

 ポールはグラスのワインを飲み干した。


「ふん! そんなこったろうと思ったよ」

「すみませんでした!」深く頭を下げ謝る。

「心配かけやがって。もう二度とすんじゃねえ」

 ルカも深くポールに頭を下げた。

「本当に申し訳なかった。俺がブリウスに運転教えたばっかりに」

 ポールは立ち上がり、窓辺に向かって外の様子を気にする。

「急ぐんだろルカ。もういい、早く行け」


 そしてリッチーたちソウルズのデリバリーバンは、そこから北へ三百キロ、〝テンペスト〟の町を目指した。


 ****


 風が吹き荒ぶ丘陵にある小さな町、テンペスト。

 その町はずれにある古びた木造建屋にデリバリーバンは止まった。

 深夜二時、ソウルズが降り立つ時、尾根の向こうから一台のセダン、ベントレーが姿を見せた。

 渦巻く砂塵と共に。

 リッチーがドアを閉めながら言う。

「あれはベルザだ。彼はいつも幽霊ゴーストのように現れる。潮の匂いを漂わせて」



 その建屋はリッチーの隠れ家で、地下は鉄筋コンクリートのシェルターになっている。

 キーティング・チェストはそこに保管されていた。

 チェストの前に並び立つソウルズの四人とベルザ。

 レプタイルズ・キーを手に、リッチーは訊く。


「ベルザ。あんたの目的はこの中にある〝ヘヴンズパール〟と言ったな。そいつはいったい」

「そう。天界の真珠ヘヴンズパール。その輝く球体は悪魔リガル・ナピスを滅する最後の切り札。ビッグバンのエネルギーを内包し、破壊と再生無限の力を意のままに操ることができる。また、真に神に選ばれし者に委ねられる。そういう言い伝えだ」

 私はそれだけを預かるとベルザは言い、四人は同意した。



 リッチーはキーティング・チェストを前に神妙な面持ちで鍵を握りしめた。

 伝説の戦闘種族、爬虫人類レプタイルズの神器と伝えられたその鍵に畏敬の念を込め、鍵穴に挿し込んだ。


 解錠――ついに開かれる、その重き蓋。


 燦然と、眩い光に皆が目を奪われた。

 それは地下室を昼間のように照らした。

 金貨銀貨、宝飾品、王冠……二百年眠り続けたキャプテン・キーティングの大いなる遺産。

 その無限の輝きによって世の飢餓や貧困が救済されることをリッチーと同志たちは心から願った。


 そしてベルザはチェストの奥底に手を伸ばした。

 その右手に吸い込まれてゆく光の球体、ヘヴンズパール。

「キーティングが成し得なかった夢。これは仮に私が預かる……」

 刺すような虹色の光条にリッチーたちは目を覆った……。




 地下室を上がり外へ出る五人。

 別れを告げる前にリッチーはベルザに。

「……それでジョージ・パインドを殺した犯人は、まだ?」

「まだ調査中だ。ジャックのことも気になる。あの子もまだ犯人探しを諦めてはいない」

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