第18話 ソウルズ最後の仕事

 ポートレイト博物館は〝文化の街〟セルフィスの五番街にある。

 赤いレンガ調タイル張りの鉄筋コンクリート三階建。

 古びた外観に反して中は最新の防犯システムを備えている。

 日中はドーム型カメラが四方を監視し、夜間は赤外線暗視カメラが鼠一匹の徘徊さえ許さない。

 建物内の熱感知センサーは〝NPCセキュリティ〟と直結し、警報が鳴ると武装した警備員が駆け込んでくる……。



 ルカが博物館のパンフレットを指で弾いて訊いた。

「警備会社の概要にはNew Paradigm規範 Combine連合 セキュリティとあるが?」

「実のところは〝No PeaCeナピス〟」

 リッチーは顎髭をさすりながら答え、補足した。

「うむ。平和に抗う組織〝ナピス・ファミリー〟。子会社〝セキュリティ〟の警備員は金に目が眩んだ傭兵部隊。E-SWATや海兵隊あがりもいるという」

 眉をハの字にルカがボヤいた。

「ふえ〜、おっかねえなあ」

「頭目は大富豪〝リガル・ナピス〟。奴はエルドランドこの国の闇を支配しつつある」

「悪魔の武器商人リガル・ナピスは二百年生きてきたと聞くが本当かね」

「フッ……奴はナポレオンやヒトラーにも武器を売り、そそのかしたという噂だ」

「そんな得体の知れない化け物に〝ベルザ〟は太刀打ちできるのか?」

「彼の組織ソサエティの規模も計り知れない。実態を見せない点では同じ。そして戦いはとっくに始まってる」

「そうか。俺たちはもう巻き込まれてるわけだな」

 そう言ってふぅと息を吐くルカの肩をリッチーはいたわるようにさすった。

「……そう言うな」



 獲物ブツは主たる展示室に保管されている。

 建物一階中央の部屋、厚さ十五ミリの特殊強化ガラスケースに納められている〝レプタイルズ・キー〟。

 その鍵は銀の鍵頭ヘッドにパールブルーの石が埋め込まれた、〝爬虫人類レプタイルズ〟の神器と言われるもの。



 およそ四年かけてもリッチーは宝箱〝キーティング・チェスト〟を開けることができなかった。

 協力者ベルザはリッチーに言った。

「やはりレプタイルズ・キーでなければ……」


 ベルザは調査し、《クレイドルズ国のレプタイルズ烈士〝マッドマニッシュ〟が飲み込んだレプタイルズ・キーはナピスが回収し、ナピス私設のセルフィス・ポートレイト博物館に展示した》ことを知る。

 その流れでベルザは博物館の見取り図をリッチーに渡した。



 チェストはそのままリッチーの手元にある。

 見取り図をメモしながらホウリンが言う。

「世界最高峰鍵師リッチー・ヘイワースのプライドも傷つけられたな」

「フフ、まったくだ。ベルザは言った。リガル・ナピスはキーティング・チェストが世に出されたことを感づいている。奴もチェストの中身を狙ってる……と」

「かぁーっ! 欲望は果てしなくだな。……レプタイルズ・キーか。で、その〝レプタイルズ〟って何なんだ?」

「……爬虫人類。伝説の戦闘種族。といっても見た目は普通の人間だ。本来は穏やかで従順な一族。かつては王族に仕えたという」

「……隠密か」

「恐竜から進化した人類というのは、知る人ぞ知る」

「なんじゃそりゃ。あれだ、UMA未確認生物ってことにしとけ」とホウリンは鼻で笑った。

「……まあ、世の中はまだ謎だらけだ。リガル・ナピスの真意もな」

「ああ。これは罠かもしれない。博物館に鍵を置いたのもまるで鼠捕りの餌だ。俺たち殺されるぞ。ナピスに」


 リッチーは髭をさすり、隣りで閉口するジミーの肩を揉んだ。

「死は覚悟の上。……俺は以前それでいいかと何度も聞いたな」

 ホウリンもその肩をほぐす。

「心配するなジミー。俺たちのことだ。大丈夫」

「あ、ああ、そう。いろんなワードが出てきて混乱しただけさ。ははは」

 ルカが背中を叩いて耳元で囁く。

「ワクワクするだろう? ジミー」

「ひゃっ!」と、ジミーは三人の余裕にもう笑うしかなかった。

「みんな絶対面白がってるでしょ」



 四人は目と目を見合わせ拳を突き揃えた。

 リッチーは頷き、祈りを捧げる思いで告げた。

「最後だ。ソウルズ最後の仕事。クールに仕事コトを済ませよう」


 ****


 覚悟を決めた四人を乗せたVWデリバリーバンはセルフィスにたどり着き、とある雑居ビルに入った。

 交通誘導員の制服を着たホウリンとジミーがヘルメットを被り、通りに出てパイロンを立てる。

 工事で地盤が緩んでいると何十台かの車に告げ、目当ての一台を待つ。

 そしてリッチーが調べた時間通りに、清掃業者の車はその路地へ現れた……。

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